第34話 王都、学園
目の前に長い馬車の列が見える。その向かう先は、大きな大きな城門だ。堀に囲まれた城壁がどこまでも続いて見えるのが見える。あの壁の向こうに王都があるらしい。
「ジル様、王都ってどんな所かしら?」
「どうだろう? オレも行ったことないからなぁ」
「爺やは行ったことがある?」
「儂も何度かしかありませんが、とにかく賑やかな所ですよぉ。それから人がめっぽう多くて、なんもかもデカいですなぁ」
「楽しそうね!」
アリスは初めての王都にウキウキだ。そんなアリスがかわいくて、つい頭を撫でてしまった。
そうこうしているうちに馬車列は進み、どんどんとその大きな城門が近づいてきた。近くで見ると本当に大きいな。オレールの街の城門も立派だったが、その倍ぐらい大きい。さすが王都だな。彫刻などの装飾もされていて、王家の威信を感じる。
「わあ!」
「ほう……」
王都の中に入ると、まず建物の高さに圧倒される。さすがに高層ビルまではいかないが、それでも高い。これもオレールの街では見られなかった光景だな。
そして道も広い。馬車が余裕で五台は並んで走れるだろう。そんな道を無数の馬車が行き交い、数えるのも億劫になるほどの人々が歩いている。すごいな。オレールの街もまぁまぁの都会だと思っていたが、上には上があるようだ。
「まずは学園に行きましょうかねぇ」
「ああ、頼む」
学園は王都の中心近くにあるようだ。中心に近づくにつれて、建物が豪華になっていくような気がした。そして、街の中心にあるのが大きな白亜の城だ。近づいていくと、その巨大さがわかる。壮観だな。
学園はそんな城のすぐ近くにあった。貴族の通う学校だからか、門には衛兵が立っているし、全体的に豪華だし、すごい。まるで博物館みたいだ。
そして、初めて来た場所だが、既視感もあった。背景やイベントスチルで見た場所だからだろう。ついにオレはゲームのスタート時間に来たんだなぁ……。なんだか感慨深い。
ゲームの展開通りに進めば、オレの命はあと三年か。この間になにを為せるかがオレの生存ルートには必要だな。
できる限りムノー侯爵家からは離れて、無関係を貫くんだ!
荷物をそれぞれ男子寮と女子寮の部屋に入れると、オレとアリスは学園内のカフェテラスで落ち合った。
「どうだった、アリス? 馴染めそう?」
「先輩の方にお部屋を案内していただいたのですけど、あまりエロー男爵家にいい感情を持っていらっしゃらない方のようで……」
「そうか……」
オレもアリスの実家であるエロー男爵家について調べてみたことがあるのだが……。たしかにあまりいい噂は無かったなぁ。たくさんの愛人を囲って、たくさんの子どもを作っている。悪い言い方をすれば、子どもを使ってギフトガチャをしているようなものだ。しかも、子どもたちの住環境はよろしくないようだ。ギフトによっては奴隷として売り払ってもいるらしい。
ギフトが大きな力を持つこの世界では、いいギフトを貰えるかどうかは文字通り死活問題だ。たぶんどの貴族家でも愛人を囲って、いいギフトを持った子どもを求めているだろう。だが、そういうのは秘密でやるものだ。エロー男爵家のように大っぴらにやるものではない。
エロー男爵家は罰を受けているわけではないが、白眼視されているというのが実情のようだ。
とはいえ、オレもあまりいい状況じゃないんだよなぁ。
皆、国の大貴族であるムノー侯爵家の動向は注視しているようで、オレが正式にムノー侯爵家からなんの領地も利権も得られずに叩き出されたことを知ってるみたいだ。
今のオレは、接近してもあまり旨味の無い貴族であり、それどころか接近すればムノー侯爵家の怒りを買うかもしれないという微妙どころかマイナスの存在なのである。
「お互い、友だちを作るのは苦労するかもしれないね……」
「はい……」
オレたちの学園での一日目は、溜息と共にスタートするのだった。
前世ではなんでこいつはこんなにバカなんだろうと笑っていたけど、なんだかゲームでのジルベール君の行動もなんとなくわかる気がするよ。
貴族たちに無視されて、誰も認めてくれなくて、それは弟に次期侯爵位を取られたことから始まっていて……。
そして、腐っても侯爵家子息の権力を狙ったならず者たちに利用されて……。
きっとジルベール君は、自分が体よく利用されていることもわかっていただろう。だけど、ジルベール君を認めてくれるのは、そんなならず者たちしかいなかった。
そうしてダンジョンの中で犯罪の片棒を担がされて、主人公の必殺技で討伐される。ゲームでは彼の道化な部分しか描かれていなかったが、実際にジルベールになってみると、彼にも同情すべき部分が見えてきた気がした。
今度こそは、今度こそはそんな無念なルートなどたどらせない。
オレは生きるぞ! 生きて、アリスと一緒に幸せを掴むんだ!
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