第27話 デート
「ジルベール様、こっちこっち」
「アリス、あんまり走ると転んでしまうよ」
オレはアリスに引っ張られるようにしてオレールの街を歩いていた。今日はアリスの錬金術に使うための素材を買いに来たのだ。
普通、貴族の買い物といえば、こちらから店に出向くことはなく、店の店主を屋敷に呼び寄せておこなう。
だが、オレとアリスは街に馬車も使わずに歩いて出かけていた。
たぶん、男爵家の中でも虐待されていたアリスにとってこちらの方が自然なのだろう。オレも気分転換にアリスに付き合っている。
賑わっている街を歩くというのは、それだけでも楽しいものだ。
「ジルベール様、あそこに新しいお店があるみたい」
「あとで覗いてみようか。まずは錬金術に必要な素材を買っちゃおう」
【収納】のギフトを持つオレにとって、荷物などすべて収納してしまえばいい。買い物の順番を考えなくてもいいのは利点かな。やっぱり【収納】のギフトは強いし便利だ。なんでこんなに不遇なのかわからない。
「おじゃましまーす」
「おや、アリス様とジルベール様じゃありませんか。今日も素材をお探しですか?」
「ああ、今回も大量に買うつもりだ」
「それはありがとうございます」
入ったのは一軒の錬金術の素材を扱っている店だ。店長の老婆は、朗らかな笑みを浮かべてオレたち迎えてくれた。
まぁ、毎回大量の素材を買っていくからな。老婆にとってオレたちは常連の太客なのだ。
「今日はなにをお探しですか?」
「えっと、スライム溶液と、コウモリの翼と、サソリの尾と、レッドペッパーと……」
「はい。付いてきてくださいね」
「おねがいします」
アリスが必要な素材を列挙していくと、老婆が紙にメモを取って奥へと素材を取りに行く。オレたちも老婆に付いて行く。
古木のような埃っぽい匂いが充満する店の奥に入ると、大量の袋や箱が無造作に置かれていた。たぶん、錬金術の素材なのだろう。
「それがコウモリの翼になります」
「ああ」
オレは老婆が指した袋を収納空間に収納していく。量など指定しない。すべて貰っていく。老婆にしてみれば、笑いが止まらないだろう。
「ありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございました。またいらしてください」
ニコニコ顔の老婆に見送られて、オレたちは店を出た。
「さて、用事も済んだし、どうするか……」
上を見上げれば、まだ真上に太陽があった。これからダンジョンに潜るというのもありか?
「ジルベール様、デートしましょう!」
そう言ってアリスがオレの腕を取った。まるで恋人たちがするような腕組だ。手の指も互い違いにつないで、恋人つなぎである。他の人から見れば、オレたちはまごうことなき熱々の恋人たちだろう。
なんだか照れくれ臭くて耳が熱くなるのを感じた。
「デート?」
「そう、デート」
オレなんかがアリスのデート相手でもいいのだろうか。
「行きましょう、ジルベール様」
「ああ……」
それからオレたちは露店や店を冷かしながら街を見て回る。途中で露店でアイスを買って、広場の隅っこで食べた。
「これ、冷たくておいしい……!」
「そうだね」
アリスはアイスが気に入ったようだ。
この世界の技術レベルは基本的に低いけど、ギフトという不思議な力があるからか、地球の技術に近いか、それを越える分野もあってチグハグだね。
ただ、ギフトという個人の力によっているから、この世界では個人の力がかなり評価される。言葉通りの一騎当千とか普通にありえる世界だからね。
だから、オレも高く評価されて死ぬ運命を回避したいなぁ……。
「おいしいですけど、なんだか体が寒くなってしまいますね……」
アリスが困ったような顔でオレを見ていた。
寒くなったなら、温かいものでも飲めばいいじゃない!
「アリス、次はあれに行くぞ」
「あれ?」
オレはアリスの手を引いてある店に入った。まるでバーのような店だが、酒の臭いはしない。むしろ、甘ったるい匂いが充満していた。
「ここは……?」
「チョコレートバーだな。今、流行のホットドリンクだね。アリスはチョコレートを飲んだことはあるか?」
「ちょこれーと? 飲んだことないです……」
アリスが恥ずかしそうに言う。きっとエロー男爵領にはなかったのだろう。
「ちょっとクセがあるけどおいしいよ。試してみよう」
「はい!」
オレたちはカウンター席に座ると、チョコレートを注文する。出てきたのは固体のチョコレートではなく、カップに入ったホットチョコレートだった。
この世界では、まだチョコレートを固める技術がないみたいだ。チョコレートを固める技術を知っていれば、きっと巨万の富を手にすることができただろう。ちょっと悔しい。
「くそっ! マジかよ!?」
「へへ、わりいな」
店の奥で賭け事をしている男たちを無視して、オレはアリスにチョコレートを勧める。
「さあ、飲んでみて。口に合えばいいけど……」
「いただきます……」
アリスがチョコレートに口を付け、その細くて白い喉が上下する。なぜかその姿がオレには妖艶に見えた。
「おいしいです!」
アリスが目を見開いて笑顔を浮かべていた。
「それはよかった」
アリスが笑顔を浮かべると、釣られてオレも笑顔を浮かべてしまう。気に入ってくれてよかった。
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