第26話 悪法
その日、オレールの街は激震に見舞われた。
なんと、フレデリクがダンジョンに入るためには税を納めるべきと宣言したのだ。冒険者たちは、その階級に応じてダンジョン税を払わないとダンジョンに入れなくなってしまった。
ダンジョン税自体はそんなに高いものじゃない。だが、冒険者からの反応は悪い。
いままで無料で入れたのにいきなり金を請求されれば誰だって不快になる。
特にひどいのが、低階級の冒険者の反応だ。ダンジョンの低階層では、宝箱でも見つけない限り収入が低いんだ。まずモンスターのアイテムドロップ率が低いし、ドロップしても棍棒とかいうただの木の棒とかだしな。
ダンジョン税なんか払っていたら、低階層を攻略していた冒険者たちは収支がマイナスになってしまう。
その結果、低階層を攻略する冒険者が激減した。
冒険者というのは、なにもダンジョンの攻略だけが仕事じゃない。薬草を採取したり、野生の魔獣を倒したり、行商人の護衛をしたり、他に仕事なんていくらでもある。そちらに低階級の冒険者が流れた。
フレデリクは、収入が増え、領内の魔獣が積極的に倒されるようになった状況に満足しているらしい。
そのしっぺ返しの痛さも知らずにな。
◇
「せやっ!」
目の前の直立したワニのようなモンスター、リザードマンに左右のワンツーを繰り出した。それだけでリザードマンはボフンッと白い煙となって消える。
やはり最強装備であるタスラムの攻撃力はこの階層ではかなり強力だな。楽にモンスターを倒せる。いいことだ。
「えいっ! やぁっ!」
背後からアリスの声が聞こえる。見れば、残り二体のリザードマンが、しきりに目を擦っていた。目潰しかな?
「ナイスだ、ジゼル!」
オレはリザードマンがでたらめに振る槍を回避し、懐に潜るとファストブローを叩き込む。白い煙となって消えていくリザードマン。その姿を確認することなく、オレはもう一体のリザードマンにもファストブローを叩き込む。
「ふぅ」
これで終わりだな。
「おつかれさまです、お兄さま」
「ああ。ジゼルもナイスだった。おかげで倒しやすかったよ」
「えへへ」
フード越しにアリスの頭を撫でると、アリスは恥ずかしそうな、嬉しそうな声をあげる。少なくとも嫌われてはいない。……と思う。たぶん。
だが、アリスの頭を撫でるのはもう少ししたら控えないとな。学園に入ったらちゃんと髪をセットしたりし出すだろうし、身だしなみにも気を付けるようになるだろう。セットした前髪を崩すと怒られるからな。
「ドロップアイテムはありませんね」
「まぁ、もともとあまりドロップする確率もよくないからね。ドロップしてもゴミだし」
第十四階層のリザードマンのドロップアイテムは木の槍と鱗だった。売り価格も低かったし、仮にドロップしても無視していいだろう。
オレールの街のダンジョンが儲かるようになるのは、だいたい二十階層くらいからだ。
「それよりも先に進もうか。あれはスライムじゃないか? ジゼル、頼んだ」
「はい!」
アリスは腰のポシェットからフラスコのようなものを取り出すと、スライムに向かって駆けていく。
「えいっ!」
アリスがフラスコを投擲する。フラスコはスライムに命中すると割れ、勢いよく燃え盛り始めた。アリスの発火ポーションだ。
スライムは苦しむようにのたうち回ると、次第にその動きが緩慢になると、ボフンッと白い煙となって消える。
動きの遅いスライムは、アリスにとっていいカモだな。
「ジゼル、よくやった」
「はい!」
アリスがオレに頭を突き出すようにしている。撫でろってことか?
「偉いぞ、ジゼル」
オレはアリスのフードをポンポンと軽く叩いて撫でていく。
「むふー!」
キツネのお面で表情はわからないが、アリスからは満足そうな声が聞こえた。
アリスは今まで辛い境遇にいたから、人との触れ合いに飢えているのかもしれないな。
だが、この素直なアリスももう少しで見納めかな。アリスも十一歳。第二次性徴が始まると、女の子は態度を大きく変えるからな。
嫌われないといいけど……。
まぁ、こればかりは実際になってみないとわからないか。
その後、オレとアリスは順調に第十四階層をクリアした。
だいぶダンジョンもクリアできてきたな。次は第十五階層、ボス戦もある。気を引き締めないとな。まぁ、楽勝だろうが。
アリスもだいぶ育ってきた気がする。ずいぶん錬金術にも精通してきたし、肉体レベルが上がってMPが増えたから加速度的に錬金術スキルが上がっている気がする。
こんな時にステータスで数値を確認できたら便利なんだがなぁ。まぁ、無いものは仕方ない。
「ねえ、お兄さま。明日もダンジョンに潜るの?」
「ああ。学園に行く前にできるだけ実力を上げておかないとね」
「ふーん」
学園は王都にある。王都にもダンジョンがあるが、授業があるからずっとダンジョンに潜っているわけにはいかない。
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