第11話 人助け

 タタタッ!


 ダンジョンの白い通路にオレの軽やかな足音が響く。


 少し悩んだ挙句、オレは冒険者を助けることに決めた。この階層のモンスターならオレ一人でも余裕で倒せるからな。それに見捨てたら目覚めが悪い。


「や、やべえ! た、たすけ、ぐほッ!?」

「ジョルジュ!?」

「いやあああああああああああああああああああ!?」


 なんだかヤバそうな雰囲気だな。急ごう。


 それにしても、こんな低層でパーティ組んでるのに負けるとか初心者かな?


 通路の角を悲鳴が聞こえた方向に曲がると、三人の人影と銀色に輝く流線形が見えた。


 あれって!?


 オレのテンションが否が応でも上がっていく。


「メタルスライム!」


 狩れば大量に経験値が貰えるレアポップモンスターだ!


 こりゃ狩るしかない!


「ジョルジュ、しっかりしてください!」

「おい! 逃げるぞ!」

「ごはッ!? に、にげろ……!」


 金属スライムから伸びた触手が、盾を持った皮鎧のタンク風の少年の腹を貫いていた。もう一刻の猶予もなさそうだな。


「なあ、あれ貰っていいか?」

「え!?」


 近くにいた神官風の少女に話しかけると、絶望の中で希望を見つけたようにぱあっと顔を輝かせる。


「あの、お仲間の方は?」

「いや、オレはソロだ」


 しかし、オレがソロだと知ると、その顔が再び絶望に染まる。


「おい、あんた! あんたも逃げろ! ありゃ普通じゃねえ!」


 盗賊風の男がオレの腕を掴んで叫ぶ。


「戦う意思が無いなら貰ってもいいよな?」


 オレは盗賊風の男の手を解きながら言うと、まるで狂人を見るような目でオレを見た。


「あとで文句言うなよ?」


 オレはそれだけ言うとメタルスライムへと走る。オレの存在に気が付いたのか、メタルスライムはタンク風の男の腹から触手を急速に抜いた。


 オレはタンク風の男を掴むと、ポーションと一緒に後方に思いっきり投げた。


「そのポーションを使っとけ!」


 んじゃまあ、やりますか!


「ショット!」


 まずは様子見のショットだ。放たれたボルトはメタルスライムに当たると火花を散らして弾かれてしまう。だが、そんなのは想定済みだ。


 オレはボルトと並走するようにメタルスライムに駆けだしていた。


 どんどんとメタルスライムへと近づいていく。


 すると、メタルスライムはその流線型の体を少しだけ震わせていた。


 オレにはそれがメタルスライムの攻撃の前兆だと培われた戦勘でわかった。


 ビュンッ!!!


 メタルスライムの尖った触手がオレに向けて放たれる。その瞬間、オレは大きくサイドステップを踏んだ。メタルスライムの触手がまるで十字槍のように形を変えて迫る。


 オレはギリギリのところでメタルスライムの十字槍を避けるとメタルスライムに右の拳を伸ばす。


 届け!


 オレの目の前に真っ黒な収納空間が広がり、メタルスライムを半分ほど飲み込んだ。急激に体の熱が奪われていくのがわかった。メタルスライムを収納空間に入れたことによってMPが減ったのだ。


「ッ!」


 オレは収納を解除すると、そこには体積が半分ほどに斬られたようなメタルスライムがいた。その中心には、赤い宝石が見えた。


 ボフンッと白い煙となってメタルスライムが消えていく。


「倒した……! ぐっ!?」


 オレはまるで体が内側から燃えるような熱を感じた。メタルスライムの莫大な経験値、存在の力を吸収した証だ。


 オレは立っていることができずに片膝を付く。


 体の熱と共に、まるで体がより強靭に作り替えられていくような感じだ。


「うそ…………」

「め、メタルスライムが、真っ二つだったぞ!?」

「そんなバカな……!?」


 背後から驚くような呆けたような声が三つ聞こえてきた。先ほどのパーティか。


「「「ッ!?」」」


 ようやく体の熱も収まり、振り向くと三人パーティが肩を震わせた。


「あ、あなた大丈夫? うずくまっていたけど……?」


 神官風の少女が心配そうな顔で訊いてきた。


「ああ、大丈夫だ。それより、そっちの男は無事か?」

「あんたから貰ったポーション使ったらすっかり傷が治っちまったよ。すげーな。おかげで命拾いしたぜ。な? ジョルジュ?」

「ああ、助かった。この礼は……」

「礼ならいい。お前たちのおかげでメタルスライムに会えたしな」


 むしろこっちから感謝したいくらいだ。おかげでオレのレベルは飛躍的に上がった。そのことが実感できるほど、オレの身体能力は今までとまるで違った。生物として一つ上の存在になれたような達成感だ。


「第六階層から第十階層までは、レアポップでメタルスライムが出現する」


 たぶんこの三人はまだメタルスライムを倒せないだろう。タンクとスカウト、ヒーラーのパーティでは、メタルスライムを倒すためには、圧倒的に火力が足りない。


「十分気を付けることだ。もしくは、魔法使いでも仲間に入れるといい」


 メタルスライムは物理耐性はめっぽう強いが、魔法耐性はそこそこしかない。


「あの、ありがとうございました!」

「助かったぜ!」

「感謝する!」

「気を付けてな」


 オレは後ろ手に手を振ると、ダンジョンを奥に進むのだった。



 ◇



「ジョルジュ、大丈夫?」

「ああ。まったく、すごいポーションだ。もう痛くも痒くもない」

「料金を請求されなくて助かったな」


 スカウトの男の言葉に、ジョルジュと神官の少女に笑みが零れた。


「しっかし、この階層をソロって。しかもソロでメタルスライムを撃破ってどんな英雄様だよ。まぁ、今回は助かったけどよ。声の感じからして俺らとあんまり変わらないぜ? いるところにはいるんだなぁ」


 去り行くジルベールを見るスカウトの男の目は、まるでひどく眩しいものを見るようだった。


「英雄か……。凄まじいな……」

「うん……」

「とりあえず、変異個体を見つけたんだし、冒険者ギルドに報告しとくか」


 彼らのこの冒険者ギルドへの報告が、謎の冒険者『白の死神』の確認できる最初の目撃情報だった。

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