第10話 ショットと叫び声

「ふんふふんふんふんふーん♪」


 作中最強装備であるタスラムを手に入れたオレはかなり上機嫌だった。


 鼻歌も歌うし、スキップだってしちゃう。


 そんなオレは今、ダンジョンの第五階層に来ていた。マチューには止められたが、第五階層のボスを倒してしまおうと思ったのだ。タスラムを手に入れたオレなら楽勝だろう。


 出会ったゴブリンをボコボコにしながらスキップでボス部屋の前にやってきた。


「御開帳~♪」


 オレはなんの気負いも無くボス部屋の扉を開ける。


 中にいたのは、オレとほぼ変わらないくらいの背丈の筋肉質なゴブリンだった。ホブゴブリンだ。それが三体。これが第五階層のボスだ。


 オレはボス部屋に入ると同時に右のホブゴブリンへとダッシュする。もう浮かれた気持ちは無い。まるでカチッとスイッチを切り替えるように戦闘モードになる。


 右のホブゴブリンは槍を持っていた。スッと突き出された槍を躱し、ホブゴブリンの顔に左右のワン・ツーを繰り出す。その時、タスラムが光ると、白色の光を放つ。


 これがタスラムの効果の一つ。無属性魔法の追加ダメージだ。


 都合、四連続の連撃を受けたホブゴブリンは、ボフンッと白い煙となって消えた。


 まずは一匹。


 やはりタスラムは強いな。まず基礎攻撃力からして違うというのがわかる。


「やっぱすげーや! さすが最強装備!」


 残った二体のホブゴブリンも苦労せず倒し、オレはすっかりタスラムの性能に惚れこんでいた。


 見た目もカッコいいしな。言うことなしだ。


 オレは第五階層のモニュメントに触れると、階段を降りて第六階層へと向かう。


 第六階層も白い幅広の通路が続いていた。


 しばらく歩くと、床に水たまりのようなものがあった。水たまりの中には、赤い宝石のようなものが落ちている。


「なんだあれ?」


 そのまま近づいていくと、水溜まりがぷるるんと脈打ち、重力に逆らって球体になる。ここまでくればオレにもその正体が分かる。


「スライムか!」


 オレはダッシュで距離を詰め、右の拳を繰り出した。右の拳は見事スライムの核である赤い宝石を砕くことに成功した。スライムがボフンッと白い煙となって消えた。


 だが……ッ!?


「いつッ!?」


 まるで右腕が痺れるような痛さを襲う。急いで右腕を見ると、まるで日焼けしたように赤くなっていた。左右の腕を見比べると、明らかに色が違う。


「もしかして、スライムって触るとヤバい感じ……?」


 ゲームでは、スライムの技に溶解液というものがあった。もしかしなくても、スライムって劇薬の塊みたいな感じなのか?


 まだ低層のスライムだから皮膚が赤くなるくらいで済んでいるが、強力なスライムとの戦闘では気を付けないとな。


「しかし、どうするか……?」


 しばらくはスライムが出現する階層が続く。スライムを無視することもできるが、苦手をそのままにするのはあまりよろしくない。


 なにか対策を考えなければ……。


「ようは触らなければいいんだろ?」


 対策はすぐにできた。というか、もうオレは手段を持っていた。


 そのままダンジョンの白い通路を進んでいくと、今度は天井にへばりつくスライムを見つけた。


 あれって、気が付かずに下を通ると降ってくるんだろうか?


 いくら低層の弱いスライムとはいえ、頭から被ったら悲惨だろう。ハゲないか心配だ。絶対に見逃さないようにしよう。


「収納……!」


 オレは収納空間を展開すると、あるものを取り出した。


 パシュンッ!!!


 空気を切り裂く音が響き、その瞬間にスライムが弾ける。そして、スライムは白い煙となって消えた。討伐成功だ。


「簡単に倒せたな」


 まぁ、低層の弱いスライムだし、こんなものか。


 オレが収納空間から取り出したのは、クロスボウで発射したボルトだ。収納空間では、運動エネルギーがそのまま保存されている。クロスボウで収納空間にボルトを撃ち込んでおけば、取り出せばいつでもクロスボウで発射したボルトが飛んでいく。


 この技になにか名前が欲しいな。素直に“ショット”にしとくか。


 その後も、オレはスライムを見つけ次第ショットで倒していった。


 狙いを付けるのが難しいが、外したらまた撃てばいい。オレの収納空間には千発以上のボルトが眠っているからな。毎日空き時間にコツコツと撃ち貯めておいたおかげだ。


 戦闘でボルトを使うとわかった以上、今以上にボルトを撃ち貯めておかないとな。


 スライムをショットで倒し、スライム以外を格闘術で倒していく。


 やはりタスラムの攻撃力の高さが光ったな。すべてのモンスターが一撃で倒せる。なんとも爽快だ。日頃溜まっていたストレスが消えていくようだった。


 やっぱり家族にあんな態度を取られたら傷付くよな。自分でも知らないうちにストレスが溜まっていたらしい。


「…………けてくれー!」


 爽快な気分でダンジョンの攻略を進めていると、叫び声が聞こえてきた気がした。


「なんだ?」


 なんとなく気になって声の方に向かうと……。


「助けてくれー!」


 どうやら助けを求めているようだ。たぶん他の冒険者だろう。


 さて、どうするか……?




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