第8話 家族とダンジョン
「聞いてください、父上、母上! 私は今日、ダンジョンの第八階層をクリアしました!」
「おぉ! さすがは我が息子だ! その調子で励むといい」
「わたくしも誇らしいです、アンベール」
「ありがとうございます!」
ダンジョンから帰ってくると、屋敷の玄関でアンベールと両親が談笑していた。
ジルベールとアンベールの父親であるフレデリク・ムノー侯爵と、母親のアデライド・ムノーだ。久しぶりに見たな。
「ん?」
その時、フレデリクがオレの存在に気が付いた。
「チッ。失敗作め……。目障りだ。消えろ!」
実の父親の言葉とは思えないね。母親も憎々しげにオレを見ている。だが、ジルベールの家族からの扱いなどこんなものだ。
「失礼しました」
オレはそれ以上そこにいるのも嫌になって早々にその場を後にした。
アンベールの勝ち誇ったような嫌な笑みが頭にこびりついていた。
ジルベールだって、ギフトが【収納】だと判明するまでは蝶よ花よと育てられていたんだよ? それが、ギフトが判明してからは、家族や使用人から手のひらを返したような対応を受けた。アンベールのギフトが【剣聖】だと判明してからはもっとひどくなった。そりゃ、ジルベールも心を病むよね。
まぁ、前世の記憶を思い出したオレにとっては、肉親というよりも近くにいる他人といった感覚の方が強い。そこまで彼らの態度に心を乱されない。まぁ、多少は心がざわめくけどね。でも、以前よりずっとマシだ。
◇
あれからオレは、毎日のようにマチューと一緒にダンジョンに潜っていた。
この世界でも、実戦に勝る稽古なしって言葉があるらしい。午前中はランニングとマチューと一緒に型稽古。午後からはダンジョンというのが最近の日課だ。
「Gyaa!」
「せやっ!」
ゴブリンの粗末な槍をサイドステップで避けて、その顔面に右のナックルダスターを叩き込む。
ゴブリンがボフンッと白い煙になるのを見届けることなく、オレは前に前転する。
「Gegya!?」
オレの背中の上を二本の槍が穿つのを感じた。
前転で転がったオレは、すぐに立ち上がって振り返ると、二体のゴブリンの姿が見えた。
「せあっ!」
右のゴブリンの後頭部に右のナックルダスターを叩き込む。すると、自然と左の拳が振りかぶられる。返す拳で左のゴブリンに左のナックルダスターで穿つ。
ゴブリンたちは断末魔をあげることなくボフンッと白い煙となって消えた。カランッと音を立てて、通路にはゴブリンのドロップアイテムである棍棒が一つ落ちていた。
「ふぅー……」
三匹のゴブリンを片付け、オレは額の汗を拭う。
「坊ちゃん、お疲れさまです! いい動きでしたね!」
「ああ、ありがとう」
不測の事態に備えていたマチューに礼を言う。マチューは笑いながらタオルを手渡してくれたので受け取って顔を拭った。
「さすがに第五階層となると、難しくなるな」
「そうですね。一体一体はそう強くもないんですが、数が集まると途端に難しくなります。攻撃をすると、必ず隙が生まれてしまいますからね。それをどうカバーするか考えないといけません。場合によってはチャンスを見逃すという選択も必要です。パーティを組んでいればそうでもないんですが、坊ちゃんはソロなので」
そうだよなぁ。ダンジョンは普通パーティを組んで挑むものだ。マチューがいるとはいえ、実質ソロで挑んでいるオレが異端なのだ。
「この先はボス部屋ですから引き返しましょうか」
「ん? ボスは倒さないのか?」
ダンジョンは五階層ごとにボスがいる。先に進むためにはボスを倒す必要があるのだ。
「さすがに二人では難しいですね。もしかしたら勝てるかもしれませんけど、危険です。坊ちゃんの目的はダンジョンの攻略ではなく、強くなることなので。しばらくはこの第五階層で一対多の戦闘に慣れましょう」
「そうか……」
ボス部屋まで来たのにボスに挑戦しないというのはモヤモヤするな。だが、マチューの言うこともわかるつもりだ。オレは腐っても侯爵家の人間だからな。そんなオレが死んだりしたら、マチューの責任問題になってしまう。
まぁ、オレが死んでも誰も悲しみそうにないが……。
だが、対外的にもマチューを処罰しないのはありえない。マチューが安全マージンを取るのもわかる。
でもなぁ……。この五階層でレベル上げっていっても効率が悪すぎる。どうにかもっと深くダンジョンに潜りたいが、マチューは絶対に首を縦には振らないだろうし……。どうしたものかな?
ダンジョンの帰り道。オレはどうにか第五階層のボスに挑戦する方法を考えていた。
それに、オレの到達階層が101になっているのも気になるところだ。本当に前世の記録が反映されているのだろうか?
オレはダンジョンクリア報酬である最強武器を手に入れることはできるのか?
このあたりも確かめてみたい。
一度、一人でダンジョンに行きたいところだが、今度は年齢制限が引っかかる。
さて、どうしたものか……。
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