第7話 第一階層
ダンジョンの中は光源がないのに明るかった。まるでダンジョンの通路自体が光っているみたいだ。通路の横幅は広く、三メートルはあるだろう。そんな通路が迷路のように分岐しながら続いている。
「せや!」
オレは右の拳に填めたナックルダスターを強く握ると、ホーンラビットに向けて正拳突きを繰り出した。
ホーンラビットの顔を殴ると、まるで小枝を折るような骨が砕ける感覚が拳に返ってきた。ホーンラビットが吹き飛び、通路に落ちると同時に白い煙となって消えた。
これって倒したってことでいいんだよな?
達成感からか、なんだか少しだけ体が熱くなる。
「お見事です、坊ちゃん。体は熱くなりましたか?」
「ん? ああ、なんだか体が熱い」
「それがモンスターの存在の力の吸収です。坊ちゃんはこれで少し強くなりました!」
この世界では、経験値のことを存在の力と呼ぶらしい。モンスターや魔獣を倒すと、存在の力を手に入れることができるようだ。このあたりは呼び名が変わっただけでゲームと同じだな。
「この調子でどんどん強くなっていきましょう! 今日は第一階層をクリアして、ファストブローを覚えるのが目標です!」
「ああ」
ステータスが見れるようになれば、あとどれくらいでレベルアップするかわかるんだが、ないと不便だなぁ。
「ん? なにか落ちてるぞ?」
「え? ああ、ドロップアイテムですね。一回目からドロップなんて、坊ちゃんは運がいいですね」
落ちていたのは、手のひら大のウサギの毛皮だった。
ドロップアイテムもゲーム通りか。
オレはそれから何度かホーンラビットと遭遇し、これを撃破した。第一階層はホーンラビットしか出現しないのもゲーム通りだ。
「せやっ!」
ホーンラビットの突進を避けて、そのがら空きの胴体に右の拳を打ち込む。
ホーンラビットは断末魔をあげることなく吹っ飛び、壁に当たってボフンッと白い煙となって消えた。
その時、なぜかオレは唐突にファストブローが使えることに気が付いた。
これが技を覚える感覚なのか? なんだか変な感覚だ。
「ファストブロー!」
オレの右腕が勢いよく打ち出され、宙を穿つ。実際に使ってみないことにはわからないが、初めて覚えた技だ。そのうち使うこともあるだろう。
だが、スキルを使うと、MPを消費する。オレの場合【収納】でもMPを使うから、MPの管理は慎重にしないとな。
「坊ちゃん! ファストブローを覚えたんですね! おめでとうございます!」
「ああ。マチューのおかげだ。ありがとう」
「い、いえ……。坊ちゃんの努力が実ったんですよ!」
マチューは少しだけ驚いたような顔を浮かべ、その後、男臭い笑みを浮かべてみせた。マチューが何に驚いたのかは不明だ。
「この調子で、第一階層を突破しちゃいましょう!」
「ああ!」
「あ! ホーンラビットがいましたよ!」
マチューの声に振り向けば、通路の分かれ道にホーンラビットがいた。ホーンラビットは、こちらに背を向けて、まだこちらに気付いていない。チャンスだ。
オレはダッシュで一気にホーンラビットとの距離を詰め、拳を振り上げた瞬間、ホーンラビットがボフンッと白い煙となって消える。
ホーンラビットがいた所には、ウサギの肉と一本の矢が落ちていた。
「そいつは俺が倒した! だから、俺の戦利品だ!」
声に振り向けば、こちらに弓を構えた少年がいた。
こいつも冒険者か? お世辞にも装備が整っているとは言えないな。背も低いし、弓が無ければ、ただの貧民の子どもといった感じだ。
「横取りしたら、撃つからな!」
「坊ちゃん、大丈夫ですか!? こら、お前! 坊ちゃんがいるのがわかってて撃っただろ! もし坊ちゃんに当たってたらどうするつもりだ!」
「チッ。どっかのボンボンかよ……。とにかく、そいつは俺が倒した。オレの獲物だ。横取りしたらただじゃ済まねえぞ!」
「こいつ!」
「横取りするつもりはない。行くぞ、マチュー」
「……はい」
ゲームでは他の冒険者はイベントがない限り出てこなかったが、この世界では普通に冒険者たちがダンジョンに潜っている。もう何度か冒険者とすれ違っていた。
先ほどのように意図しない同士討ちの可能性もあるのか。これからはモンスターだけではなく、冒険者たちにも気を付けないといけないな。
「マチュー、冒険者同士の同士討ちというのはよくあるのか?」
「はい……。先ほどの少年は違うでしょうが、中には率先して冒険者を襲って戦利品や装備を奪う賊もいまして……。兵士の方でも賊の存在は確認しているのですが、なにぶんダンジョンは広大なのですべて見張るには人手が足りないのが現状です……」
「なるほど……」
ダンジョンの冒険者を専門にした賊もいるのか……。ますます他の冒険者の存在には気を付けないとな。
ダンジョンの中は、治安の目が行き届かない一種の無法地帯と思った方がよさそうだ。
「あ! 坊ちゃん、見えてきましたよ。あそこが第一階層のゴールです!」
暗い雰囲気になったからか、マチューが明るい調子で言った。
マチューの指差す方向には、入り口で見たのと同じようなモニュメントと、下へと続く階段が見えた。
「これで坊ちゃんも第一階層クリアです。この石に手を当ててください」
「ああ」
マチューの言う通りモニュメントに触れると、やはり101という数字が見えた。
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