第6話 ダンジョン
練兵場を出たオレとマチューは、そのまま屋敷を出て街に来ていた。
街に来るのは久しぶりだな。オレが前世の記憶を思い出してからは初めてのことだ。
大通りにはいくつもの馬車が行き交い、人々に溢れていた。活気があるね。
街を中心の方に歩いていくと、高い壁が見えてきた。そして、道行く人々も武装した人が増えていく。
彼らはおそらく冒険者だ。この街、ダンジョン都市オレールは、ダンジョンを中心に栄えた街である。街の中心にはダンジョンへの入り口があり、その周りは高い壁に囲われていた。上空から見れば、まるでドーナツのように城壁に囲まれた街の形が見えるだろう。
「ご苦労さん、これ頼む」
「マチューか。そちらの方が?」
「そうだ」
ダンジョンを囲む城壁にたどり着くと、警備の兵にマチューが四角いなめし革のようなものを差し出していた。
「マチュー、それはなんだ?」
「これは兵士の身分証明書みたいなもんですね。こいつがあると、ダンジョンに同行者を連れていくことができるんです。ダンジョンは本当は十五歳からじゃないと入れませんが、これなら坊ちゃんも入れますよ」
周りを見ると、やっぱりダンジョンだから冒険者ばかりだ。冒険者たちは、首に下げたネックレスのようなものを警備の兵に見せてダンジョンに入っていく。
「冒険者たちは持ってないんだな。あの首のものは冒険者に登録すると貰えるのか?」
「ん? ああ、冒険者証のことですか? そうですね。冒険者に登録すると貰えるみたいですが、坊ちゃんには必要ないですよ」
「なぜだ?」
「坊ちゃんは領主様の一族ですから、それを証明するものがあれば、十五歳になったら入れるようになりますよ。領主様は個人の強さを信奉していらっしゃいますから、むしろ積極的にダンジョンに行くように言われるんじゃないですかね」
「なるほど……」
あの脳筋の親父殿ならありえるな。そして重要な情報も手に入った。
ダンジョンは十五歳からじゃないと入れないらしい。だが、兵士の護衛があれば、十四歳以下でも入れるようだ。
そして冒険者が首から下げていた冒険者証。あれがあればダンジョンに入ることができる。
ゲームでは、戦闘パートは十五歳の成人してからが本番だったからな。そんなルールがあるとは知らなかった。
でもまぁ、考えてみれば子どもが大人の護衛なしでダンジョンに入るのは危険だよね。ダンジョンは成人してからというのは、頷けるルールだ。
だが、オレは一刻も早く強くなりたい。しばらくはマチューにお願いしてダンジョンに行こう。
「これがダンジョンか……」
壁の中に入ると、小規模な白いピラミッドがあった。継ぎ目がなく、何の素材でできているのかもわからない。
「さっそく入りましょうか」
「ああ」
マチューと一緒にピラミッドの中に入ると、四角い部屋に出た。部屋の中は地下だというのにほんのり明るかった。部屋の中央には、腰くらいの高さの変なモニュメントのようなものがあった。ゲームの通りだな。
「坊ちゃん、まずはダンジョンに登録しましょう」
「登録?」
「あの石に触ってください」
「ああ」
マチューに言われるがまま中央のモニュメントに触れると、少しだけ手が熱くなった。そして、目の前にウィンドウのようなものが現れて、101と書かれていた。
「うお!?」
ファンタジーな世界なのに、まるでSFのような演出に驚いてしまった。
「坊ちゃんにも見えたんですね? それは、登録した人が何階層まで攻略したか教えてくれるんですよ。それから、攻略済みの階層へと転移することもできます」
「へー……」
このあたりはゲームと同じ仕様だな。
「坊ちゃんは初めてダンジョンに来たので、0と書かれているはずです。これから第一階層に行きましょうか」
「あ、ああ……」
101って書いてあるんだけど……?
これって101階層までクリアしたことになってるってことか?
なんでだ? オレはまだ一階層もクリアしてないんだが……。
もしかして、前世のクリア情報になってる……?
たしかに、オレは突破率2%という最難関ダンジョンであるこのダンジョンをクリアした。何度も何度も失敗したけど、諦めずに挑戦した。おかげで留年が確定しちゃったけどな。それでも、ダンジョンをクリアした時の爽快感は忘れがたいものだった。
そして、ダンジョンの攻略報酬である最強武器を手に入れた時にはリアルで泣いたほどだ。
そのデータが残ってるというのは嬉しい反面複雑だ。
もしかして、クリア報酬である最強装備はもう貰った判定で貰えないのでは?
ぶっちゃけそれはかなり困るんだが……。
ゲームでの最強装備は、ダンジョンのクリア報酬に設定されている場合が多い。強くなりたいオレにはどうしても欲しいアイテムだ。
だが、ここがダメなら他のダンジョンでもダメだろう。
果たして、オレはちゃんとダンジョンクリア報酬を貰えるのか?
「坊ちゃん、行きますよ」
「ああ……」
オレは謎を抱えたままマチューに続いて第一階層を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます