第27話 闇の中~転生~

 そうか……


 そうだったんだ……


 わたしは……わたしは……


 父の、愛人だったんだ……!


 わたしの身体は、既に、いっぱい、いっぱい穢されていて……

 その末に、父に捨てられた、そんな哀れで、愚かで、どうしようもない存在が――わたしだったんだ……!


「うう……うわぁあああ……うぁあああああああああああああああああああああああああああああああ……!」


 気づけばわたしが存在していた真っ黒な空間で、わたしはただ、涙を流し続ける。


 わたしは悲しかった。


 自分の愚かさが、悲しかった。


 わたしの大切な純潔は、いや、純潔どころか、あらゆるまともな感性は、あの父親に食いつぶされていた。

 わたしはその末に、あの大切にしていたジグソーパズルを思いっきり投げつけられて、そのまま捨てられてしまったのだ――


 どれくらい泣いていただろう。

 あの瞬間、バラバラと部屋に散らばったジグソーパズルのピースが、今、わたしの足元に落ちている事にやがてわたしは気が付いた。

 ジグソーパズルはあちこち欠けてしまったようで、もう例え組み上げても完全な姿は取り戻さないだろう。


 わたしは、そんなジグソーパズルが、まるで自分のようだと感じた。


 父親に、軍に、バラバラにされてしまって、欠けてしまって、もう完全な姿を取り戻す事はできなくなってしまった、そんな自分――


 悲しい。悲しい悲しい悲しい――


 わたしはまた、泣き始めた。

 泣けば何が良くなるのかも分からないまま――


 ただ、張り裂けんばかりの悲しみを胸に、泣き続けた。


 そうして、泣き疲れて、わたしが呆然と前を見つめていた――その時だった。


 突然、足元のジグソーパズルが、白紫色の光を放ちだす。


 光の塊となった個々のピースは、やがて一つに集まっていって、わたしの目の前で光の玉となって浮かびだす。


「シェリ……シェリ……」


 そこから、優しい少年の声がした。


 わたしの傷ついた心を、その暖かさで強烈に惹きつけるような、そんな声。


「クロウ……さま……」


 わたしはその声の主を知っていた。


 クロウさまだ。


 クロウさまが、傷つき心折れたわたしを、光の中から見守り、声をかけてくれる。


 わたしは、その事すら、悲しいとしか思えなかった。


 わたしの身体は、もうすでにあの男に穢されきっている。

 身体だけではない。

 心こそが、一番穢されていた。


 わたしはそんな自分としてクロウさまに体面するのが、なぜか耐えがたいほど苦しく、嫌で嫌でしょうがなかった。


 わたしは、恥ずかしかったのだ。

 自分の人生が――

 自分の愚かさが――

 そして、自分の恥を知らない淫らさが――


「シェリ、シェリ……大丈夫だ……この光を、どうか味わってほしい」


 クロウさまは、そんなわたしに対して、あくまで優しく語り掛ける。


 そして、目の前の白紫色の光は、段々と大きくなり、わたしを包み込むようになるまで、膨らんでいく。


 その光が与えてくれるのは――強烈な、熱。


 熱い。


 心が、熱い――


 わたしの心は、ぶわぁっと暖かくなって、ざぁっと熱くなって、ごぉっと何か神聖な領域へと流されていく……そんな感じがして――


 気づけば、わたしの心は光と一つになって、溶け合っていて――


 そうして、わたしは小さな、2歳くらいの女の子となって、生まれ変わっていた。

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