第17話 音と花の魔法芸術~花畑狂想曲~

 シェリやミューと別れた後、俺とアマナはいったん課題をやろうという話になり、それぞれ学園内の魔道具製作室に篭もる事になった。


 俺は自分なりの「花を咲かせる魔法芸術」を追い求め、それを形にしていこうとする。


 だがなかなかいいアイデアが形にならず、悪戦苦闘していた。


「クロウお兄さま、調子はどうですか」


 と、アマナがいつの間にか背後にいたようで、話しかけてくる。


「……苦戦してるな。これはいいかもというのはあるんだが、なかなかいい形にならない」


「そうですか。わたしも、魔法芸術なんてきちんと作った事が無いので、どのように作ればいいのか分からず、苦労しています」


「……そうか」


 アマナも良く見ると意気消沈しているようで、様子を見るになかなか理想通りの物が作れずにいるようだった。


「そこでクロウお兄さまに提案があります。わたしとクロウお兄さま、二人でタッグを組んで、魔法芸術を製作して提出しませんか」


 タッグを組んで共作を行う。それ自体は、学園長も講義の終盤に許可を出していた。

 

「んー、確かに、それも面白いかもな」


 そういうと、アマナはぱぁっと顔を明るくして、テンションが上がった様子だった。


「いいですね! クロウお兄さまに承諾していただけるかドキドキしていたので、今、とっても嬉しいです!」


 アマナの可愛らしい様子に、俺も気持ちが明るくなるのを感じた。こういう素直に喜びを表現する所は、アマナの良い所だなと思う。


「それでは早速、魔法芸術の相談をしましょう。わたしとしては、大量のつぼみが教室中に存在する中から、音楽を奏でて、その音に合わせて次々とつぼみが花咲くようなものを作りたいのですが……」


「それだったら時魔法をこう使ったら面白いんじゃないかってアイデアがあるんだが……それというのが……」


「……! 面白い……! 面白いです……! でもそれだったら、こちらも音魔法でこうすると……」


「おお、行けそうだな! それで行こう!」


「わたしたち、名コンビかもしれませんね!」


 アマナとはその後数日間、行動を共にし、魔法芸術の製作に時間をかけた。


 その成果を発表する翌週の講義が、やがてやってくる。





 *****





 教室内に、またしても花が咲き誇る。


 今度の生徒の作品は、水晶で出来た花畑で、その花弁には同じく水晶で出来た妖精が止まっていて、その透明な蜜を集めているような情景が描かれていた。


「ふむ、悪くない出来だと思うよ! Cランク魔法芸術といった所だね! 水晶の花の蜜を集めるって発想は面白いね!」


 学園長がその講評を下していく。


 次第に順番が近づいていき、ついに俺とアマナの番になった。俺とアマナが、最後の順番だった。


「最後は、クロウ・ツァイトとアマナ・ローレライの共作だね! さあ、発表してもらおうか……!」


 俺とアマナは、緊張した、それでいて自信に満ちた面持ちで、教室の前に立つ。


 アマナと顔を見合わせ、頷き合う。


 俺とアマナは、手元の鞄から大量の花の種を取り出し、それを簡単な風魔法で、教室中に散布して、床や机、壁や天井に貼り付けた。


「これは……花の種……?」


 そしてアマナが、一人指揮棒を取りだす。


 アマナが指揮棒を動かした瞬間、ひとりでにヴァイオリンの音色が奏でられ、切なくも美しい、アマナオリジナルの音楽が流れだす。


 驚くのはこの後だ。


 アマナの音楽に合わせるような調子で、花の種にかけられた俺の時魔法が作用し、花の時間が加速して、次々と花が成長していく。


 まず教室の左側が成長し、次に中央、次に右側、そして壁、さらに天井と、緩急をつけて花が育ち、つぼみにまで至る。


 次第に曲は、ピアノが旋律として加わりだし、切なく美しいメロディから、荒々しく激しいメロディへと転調する。


 教室の皆の心が一つになって、曲に集中し、夢中になる様子が伝わってくる。


 次の瞬間、激しくピアノの協和音が鳴り響く中、俺は花の時間を操作し、早回しで一気に教室中の花を咲かせ始める。


 曲は一番盛り上がる場面に入り、ピアノが鳴るたびにどこかの花が点々と咲き、ヴァイオリンが響くたびに、すうっと線を描くように花が咲く流れが出来ていく。


 その様は教室のどこから見ても本当に美しいもので、みなが圧倒され、見惚れていた。


 黄色い花が咲き、赤い花が咲き、青い花が咲く。曲が進めば進むほど、教室中の床も机も壁も天井も花畑で一杯になっていく。


 最後、曲がフィナーレを迎えると、花たちは全て、パッとカラフルな光となって儚く消えた。これは幻魔法を使った演出だ。


 俺とアマナは、二人そろって一礼した。


 わああ、と歓声が起き、教室中が拍手で包まれた。


「わぁあ……! すごい! すごかった! 今のはAランク、いや下手するとSランクくらいは行っててもおかしくないと思うよ! 良い物見たなぁ……! キミ達、才能ありまくりだね! クロウとアマナか、覚えたよ!」


 学園長の絶賛が、なんとなく耳にこそばゆかった。


「第一回講義の課題は、クロウとアマナが金賞だね! 特別に二人には、1単位を授けるよ! また頑張って、いい作品作ってね! 楽しみにしてるから!」


 歓声と拍手が、またしても鳴り響く。


 俺はアマナと顔を見合わせ。


 笑顔を咲かせるアマナと、ハイタッチをした。

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