第15話 シェリVSアマナ

「クロウさま……クロウさま、こちらのアマナさんの事を一番好きだというのは、本当なのでしょうか……わたくしの事は、友達ではあれ、2番目や3番目、いえそれ以下の、取るに足らない友人であると、そういう事なのでしょうか……? そうですよね、わたくしごときが、クロウさまの大切な友達という位置を占めるなんて有り得ない事……おこがましい事……そうなのですね……アマナさんが一番で、わたくしなど路傍の石……そういう事なのですね……うう……うわあああああああああ……!」


 シェリは、アマナの登場に際して発言された内容がいたく気になったようで、そんな事を言って、驚くべきことにそれだけで泣き出してしまった。


「落ち着けシェリ! そんなわけないだろう! 俺はアマナもシェリも、等しく大切な友達であり、絆を築いた相手だと思っている……! だから泣くな!」


「そんな! お兄さまはこんなポッと出の女が、わたしと同じく大事な存在だと、そういうのですか……!? わたしとお兄さまの絆は、その程度のものだったのですか……!? うう……うわあああああああああ……!」


 俺が言った言葉に過敏に反応して、今度はアマナが泣き出してしまった。これはどうすればいいんだ……と慣れない状況に困惑してしまう。


「落ち着けアマナ……! 大切かどうかに、歳月は関係ないだろう……! 大事なのは、俺がアマナの事も、とっても大事に思っていて、大切にしたいと思っているって事だ! 二人の関係だけに注目してくれれば、それでいいんだ! だから泣くな!」


「……わたしの事……大事です? ……本当の本当に、大事です?」


「ああ、大切だ」


 そういうと、アマナは途端、笑顔になって、こんな事を言い始める。


「えへへ、良かったです。アマナの事はちゃんと大切なのですね。そうですよね。お兄さまはアマナがいないとダメダメですからね……えへへへへ」


 アマナは安心したようにそう言って笑う。

 

 だが、それに異を唱えたのはシェリだった。


「アマナさん……失礼ながら、クロウさまはダメダメなんかではありません……! クロウさまは、聖人のような、天使のような、そういった類のとっても素晴らしい方です……! わたくしはクロウさまを心より尊敬し、お慕いしております……! 失礼ながら、アマナさんがいなかった時の、わたくしと接してくださったクロウさまは、ダメダメなんかではなく、とんでもなく素晴らしい、高尚な振る舞いと言動でした……! そんな素晴らしいクロウさまをダメダメといってしまうなんて、わたくし聞き過ごす事は出来そうにありません……! 訂正してください……!」


 だが、対するアマナも負けていなかった。


「ああ……なんという事です……クロウお兄さまの情けない本質を知らない程度の女が、クロウお兄さまの友達面をしているなんて、アマナ、信じられないです……! 友達とは、相手の本質をきちんと理解しあって、何でも話せる関係性を築いてこそです。シェリ、あなたのその一方的な理想の押し付けは、到底友情と呼べるものではないです。今すぐお兄さまの前を去りなさい。お兄さまの友達は、わたしにこそ相応しいのです」


 そういわれたシェリは、大層ショックを受けた様子で、打ちひしがれていた。


「そ……そんな……! アマナさん、あなたはわたくしが知らないクロウさまの事を知っていると、そういうのですね……! それは一体、どのような事なのですか……! わたくしも、クロウさまの友人として相応しい存在になりたいのです……! ぜひ……ぜひ……教えてくださいませ……!」


 今度はアマナに縋るように迫るシェリ。どうしてこうなった、と思いながら、俺は二人の様子を見守る事しか出来なかった。


「近寄らないでください、あなたの声を聴いているだけで、わたしの感性が苛立ちのムードを伝えてくるのです。あれ、でもそれはちょっとおかしいですね。ちょっと音魔法で調べてみます……」


 アマナは、シェリと話していて何か気づいたことがあったのか、音魔法でシェリの事を調べだした。


「シェリ、声を出してください。あーとかいーとかうーとか」


「あー、いー、うー」


 言われるがまま、シェリは戸惑いながらも声を出す。


「解析が完了しました。シェリ、結論から言って、あなたの声は呪われています。呪いの源は、自らの恋魔法。あなたの声は、男性、正確には女性愛者を強く魅了し、それだけではなく、男性愛者、つまりは一般的な女性から強く嫌悪される、という特性を帯びています」


「……え?」


 それは衝撃的な情報だった。


 男性を魅了するというのは分かる。確かにシェリには、どこかおかしくなってしまうような魅力が感じられるから。それは〈恋の試練と向き合う者〉という彼女の特性からも、想像していた事実だった。

 

 だが、女性に嫌悪されるというのは。あまりに可哀想すぎるのではないか。あまりに彼女の孤独にとって、辛すぎるのではないか。


「そうですか……そうなのですね……わたくしの呪いの根源は、この声にあったのですね……ずっとこの呪いに悩まされてきましたが……その原因が分かっただけでも、嬉しいです。本当にありがとうございます、アマナさん」


「悩んでいるのなら、解呪しましょうか?」


「……え?」


「わたしはこれでも〈音の試練と向き合う者〉です。音にまつわる事で、わたしにできない事はないといってもいいでしょう。わたしなら、あなたの声を、男性を魅了しない代わりに、女性にも嫌悪されない、そういう声にしてあげられますよ」

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