第12話 学園長の講義~花を咲かせる魔法芸術~

 交流会も平和裏に終わり、いよいよ魔法芸術学園のカリキュラムがスタートする事になった。


 俺は、楽しみと不安の入り混じる中、アマナと示し合わせて取る事にした講義の初回授業に向かった。


 その講義は、学園長が直々に担当している気合の入った講義で、多くの学生が集まるため、ホールが講義会場となっていた。


 俺とアマナはホールの前の方に位置取り着席し、学園長の登場を待つ。


 現れた学園長は、そのオレンジ色の髪の毛を左右に向けて伸ばした変わった形のボブカットを揺らしながら、その赤色の瞳でこう宣言した。


「おはようみんな! 元気してるかな! 今日はねぇ、みんなにいきなり課題を出そうと思っているよ! 課題はね、『花を咲かせる魔法芸術』だよ! 制限時間は、来週の講義まで! さぁ、今から開始だよ!」


 そういうと、学園長は、生徒達から戸惑いの声が漏れる中、黙って着席し、生徒達の様子を眺めはじめてしまった。


 しびれを切らせた一人の生徒が、学園長に質問する。


「あ、あの! いきなり作れと言われても、困ります! 僕たちの中には、魔法芸術なんてやった事も無い人もいれば、植物を咲かせる魔法なんてやった事が無い人もいると思います! それをいきなり課題をやってみろなんて、無茶苦茶ではないでしょうか!?」


 真面目そうな風貌の女生徒が、そんな言葉を投げかける。

 生徒達の多くは、それに同調する空気を見せ、学園長の反応を待っていた。


「んー、まだまだ新入生って感じだねぇ。甘いねぇ。わたしは質問をしちゃいけないとか、図書館で調べちゃいけないとか、一言も言ってないよね?」


「質問に、調べる、ですか……?」


「そうそう。魔法芸術なんてやった事ないんだったら、わたしにどんな魔法芸術があるのか聞くなり、図書館で調べてみるなりすればいい。植物を咲かせる魔法、まあいわゆる木魔法とか土魔法とか、をやった事が無いんだったら、わたしに教えを乞うなり、図書館で自力で勉強するなりすればいい」


「な、なるほど……でもそんな事、さっきは一言も……」


「キミは言われないと、質問も出来なければ、調べる事も出来ないの? それこそ、甘すぎるよ。この学園は生徒の自主性を重んじる。自主性というのは、自分で考えて、足りない情報とか物があるなら、自分で取りにいく精神の事だよ。そういう大人になってほしいから、わたしはキミ達に敢えて課題だけを提示したんだね。そんなわたしの親心、分かってくれると嬉しいかな」


 学園長の言う事には、俺も思わず納得させられた。

 自分で考え、自分で必要なものを取りにいく。そういう精神は、あらゆる事をやるうえで重要な自主性であると思えた。


「そ、それじゃあ! 学園長、学園長に直々に聞くのも恐れ多いですが! 魔法芸術とはどういうものなのか、どういうものがあるのか、教えてください!」


「ふむ、どういうものなのか、どういうものがあるのか、か。悪い質問ではないね。いいだろう、答えよう。せっかくだし他の生徒にも聞こえるように話すけど、興味が無かったら、図書館に行ってくれてもいい。これは一種の競争だからね。自分でベストだと思う行動を取ってほしいよ」


 そういわれても、立ち上がる生徒はいなかった。みな学園長がどんな話をするのか気になっているのだろう。


「まあ、確かにわたしの話を聞くのも良いだろうね。それじゃあ解説しよっか! 魔法芸術とは何なのか。それは『魔法で人の心を強く動かす作品を作り上げる事、またその作り上げた作品の事である』とわたしは考えているよ!  ポイントとなるのは、この『人の心を強く動かす』という部分だね!」


 生徒達は、みな真剣に学園長の話に聞き入っている。


「で、どういう魔法芸術があるのか、という話に移ると、これはもう様々なジャンルがあるんだねぇ! 魔道具自身に芸術性のある美しさや、美しさを生み出す力を与えた、魔法絵画や魔法オブジェ、魔法幻影と呼ばれるものが一番世間でイメージされやすい魔法芸術かな! 他にも、物語を帯びたホムンクルスなどが演技をする事で心を動かす、魔法劇と呼ばれるジャンルや、実際に味わう人が魔法芸術の中で動いたり喋ったりして、それに対して劇が進行していく参加型魔法劇と呼ばれるジャンルもあったりするよ!」


 俺はその説明には納得した。


 例えば俺がアマナに12歳のころ作ったオオルリアゲハの指輪は、魔法幻影に当たる作品だ。

 シェリに対して作った渾身の一作、天使人形は、参加型魔法劇にあたる作品である。


 そういう風に考えると、自分が作った作品は、ちゃんと魔法芸術に分類されるものになっているんだなと思い、安心した。


「一口に花を咲かせる魔法芸術といっても、表現形態やジャンルによってさまざまな物が考えられる。みんなには、創意工夫しながら、自分のこの学園での初めての作品を、一生懸命楽しんで作ってほしいかな! 頑張ってね!」


 その話を聞いて、学園長はやはり一角の人物だと感じた。


 知識や知恵を持っている事もそうだが、何より生徒の事を真剣に思いやっている事が伝わってくる。


 この講義を取って良かったなと思いながら、俺は花を咲かせる魔法芸術について、考え始めたのだった。

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