第11話 揃いゆく〈試練と向き合う者〉

「シェリ……時間が経っちゃったけど、そろそろ交流会に行かないか? 良ければ、一緒に行こうかと思うんだけど……」


 俺はシェリの感情が落ち着くのを見計らって、シェリにそう提案した。


 しかしシェリはそれを断った。


「申し出は嬉しいのですが……わたくしと一緒では、クロウさまに大変なご迷惑がかかります。わたくし、到底その事に耐えられそうにありません。わたくしとクロウさまの関係は、周囲には秘密にさせていただきましょう」


「……本当にいいのか? シェリがそれがいいというなら、俺は受け入れるけどな」


「はい、それで大丈夫です。いったんこの場はお別れしましょう」


 俺は判然としないものを感じながらも、シェリといったん別れて、交流会に向かった。


 交流会はすでに始まっていたようで、あちこちで新入生同士が活発に交流し合っている。

 

 俺は、アマナとエッセが一緒にいる姿を見て、近づく事にした。


「アマナ、エッセ。ここにいたのか」


「……クロウ。久しぶり……元気してた?」


「クロウお兄さま、ご機嫌うるわしゅう。今はこちらの男の人とお話していました。わたしの知らないお仲間らしいですが、知り合いですかね?」


 アマナの言葉に横を見ると、アマナとエッセと一緒にいたのは、俺も知っている〈試練と向き合う者〉だった。


「よっ。久しぶりだな、クロウ。こっちではロガール・グレーフって名乗ってる。元気そうで良かったよ」


 男の名はロガール・グレーフ。

 前世では、〈幻の試練と向き合う者〉ロガールと呼ばれていた。アマナが自殺する直前くらいに施設にやってきた男なので、アマナが知らないのも無理はない。


 金に近い茶髪をたてがみのようにオールバックにした短髪に、精悍な顔つき、長身とモテそうな要素が揃った男だ。これで剣の達人であり、幻魔法の達人でもある。


「本当に久々だな、ロガール。そっちも元気そうで何よりだ」


 俺はロガールと再会を祝し、握手し合う。ロガールとは、前世でも良好な関係を築いていた。俺は、やっと男友達と出会えた安心感を感じる。今世ではなぜか少女の〈試練と向き合う者〉とばかり知り合いになっていたからだ。


「やはり知り合いなのですね。しかし、このロガールさん、男前です。なんだか不思議と心惹かれるオーラも感じます。お兄さま、負けていますよ」


「お前は本当に失礼な奴だな」


「わたしはお兄さまが一番好きなので、ご安心ください」


「お、妬けるねぇ。アマナちゃんは本当にクロウと仲がいいんだな」

 

「ええ、そうですよ。わたしとお兄さまは、前世からの運命の糸で結ばれています」


「それ言ったら、わたしたち、大抵前世からの運命の糸で結ばれてると思う。アマナ、お馬鹿」


 エッセの突っ込みに、アマナがエッセをぽかぽかと可愛く殴っていた。


「ははっ。本当仲がいいな」


 ロガールはそんな様子を、眩しそうに見つめている。


「お、見覚えのあるメンツが揃っているね! ミューも混ぜてよ!」


 そんな賑やかな空間に、さらに新顔が現れる。


 〈心の試練と向き合う者〉ミュー。俺たちのリーダーを務めていた、辛い状況でも底抜けに明るい、そんな少女だ。


「お、ミューだ。元気してる? ミューも、今世でもめっちゃ可愛いね」


 前世ではミューとも仲が良かったエッセが、ミューに絡みに行く。


「やっほーエッセちゃん。こっちではミュー・クオーレって名前なんだ! よろしくお願いね! クロウとアマナ、ロガールも!」


 ミューは〈心の試練と向き合う者〉と呼ばれていた、心魔法のマスターだ。

 精神的に不安定になりやすい俺たち〈試練と向き合う者〉の中には、彼女の世話になっていたものも多い。


「ミューちゃん。前世では世話になった。今世では、似た事にならない事を祈っている。よろしく頼むよ」


 ロガールもミューに世話になった一人のようだった。


「ロガールぅ! 相変わらず、かっこいいね! 今世でもよろしくだよ!」


 ミューもロガールの事は気に入っているらしく、そんな反応を見せる。


「ミュー、ロガール。他は誰かいたか?」


「あっちでルビーは見たよ。一人でご飯食べながら黄昏てたけどね。軽く話しかけたけど、無視されちゃった」


「俺もルビーは気づいた。ほかはいない気がするな。この学園は、このメンツとルビーで全員じゃないか?」


 ロガールの言葉に、この学園における〈試練と向き合う者〉の人数はおそらく7人だとあたりをつける。


「そうか……ちなみにシェリもいるよ」


 俺の言葉に、ロガールは少し動揺したようだった。


 まあ無理もない。ロガールもシェリには好意を抱いていたようだった。ロガールが来てすぐ、シェリは自殺したので、あまり思い入れはないかもしれないが。


「そうか……あの子も。状況は分かった、情報ありがとう、クロウ」


「一回、〈試練と向き合う者〉を全員集めてパーティとかしたいよね! 楽しそうじゃない!?」


 ミューの言葉は、ミューらしいものだった。


「前世では到底叶いそうにない状況だったもんな。それも面白いかもな」


 俺はそんな返答を返しながら。


 アマナ。エッセ。ミュー。ロガールを眺める。そして、今世ではまだ話していないルビーと、シェリの顔を思い出す。


 本当に、平和になったものだ。


 ――前世では、ミューとエッセを除いた全員が、俺より早く自殺したとは到底思えないくらいに。


 そんな事を、俺はこのメンバーを見ながら考えていた。

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