第7話 魔法芸術学園

 あれから、パーティはつつがなく終了した。


 パーティの最後には、各々が進学したい学園を宣言する会があった。


 この国の貴族は、14歳から17歳までを過ごす場所として、主として3つの学園に進学する。


 総合的な教育を行う、アドゥルテル王立中央学園。


 軍事に特化した教育を行う、グリム士官学院。


 そして、魔法芸術に特化した教育を行う、シドメイア魔法芸術学園だ。


 もっとも、3つの学園は全て王都に存在するので、王都に貴族の子女が集まるという事実に変わりはない。


 クロウはこれらの中から、当初の予定通りシドメイア魔法芸術学園を選んだ。


 アマナやエッセ、シェリも、それぞれが魔法芸術学園を選んでいた。このあたりは神が話していた通りだ。


 それからの日々は、アマナと暮らす平穏な日々が続いた。


 人形をプレゼントしたシェリから、一切反応が無いのは気になったが……


 やがて14歳を迎えた俺は、アマナ達と一緒に魔法芸術学園の門戸をくぐる事になる。





 *****





 迎えたシドメイア魔法芸術学園入学式の日。


 俺は正装に着替え、家の外に待つ馬車へと向かう。


 一応は伯爵家の息子という事で、それ相応の家の威風というものを示さないといけない。

 

 学園までは徒歩でも通えなくはない距離だが、初日は馬車で向かう手はずになっていた。


 学園前まで到着すると、シドメイア魔法芸術学園の正門が目に入る。


 シンプルかつ美しい。そんな言葉が似あう門だった。


 くねっとした流線形のアーチの上に、学園の紋章にも使われている聖獣ユニコーンが左右に配置されている。その様は、うねる水の流れの上で、ユニコーンが悠然と立って向かい合っているかのようで、至近距離で見る迫力もあり、クロウは魔法芸術学園の門として相応しい造形だと感じた。


 クロウは馬車を降り、これから毎日のようにくぐる事になるであろう門をくぐる。


 学園内では、貴族の子女を案内するための学園の使用人が待機していて、そうした一人に声をかけて、入学式場まで案内してもらう。


 入学式場は大きなホールのような場所で、数百人どころか数千人程度まで収容できそうな大きさだった。使用人の解説によると、ここは魔法芸術作品の中でも一般向けに広く披露するような性質のものを発表する場としても用いられるらしい。

 そんな言葉を聞いて、魔法芸術学園に来たんだなという思いを強くする。


 それから、時間が経ち、徐々に貴族の子女や、一般家庭から入学を決めた子供たちが、ホールに集まってくる。


 その人数は百数十人といった所だろうか。みな緊張した表情で式を迎えているようだ。


 手元に配られた紙によると、学園長という人の演説の後に、学園のカリキュラムの説明会があり、その後は入学者同士の交流会という式典があるようだった。


 学園長の演説は独特だった。


「はじめまして! クリス・エスメラルダって言います! 学園長です! 突然だけど、みんなは芸術って何だと思うかな? じゃあ魔法芸術って何だろう? そういう事を一杯考えて、一杯成長していってくれるといいなと思っているよ! みんなが自分の道を見つけて、自分の表現を見つけて、自分の作品を作れる……そんな学園であるように頑張っているから、みんなも頑張ってね!」


 話が終わると、会場はどよめいた。


 出てきたやたら軽い口調の学園長は、まだ10代後半か20代前半といった外見の、少女といってもいい年頃に見えたのだ。


 中には見惚れている学生達もいたが、そうした様子に釘を刺そうと思ったのか、こんな事を次に話す。


「あ、あと、わたし、話し方は若いけど、結構おばあちゃんだから、口説いても話が合わないと思うよ! そういうのは基本NGで!」


 かなりフランクな学園長だが、年齢は100を超えているらしい。魔法の力で若さを保ち、学園長として長年君臨している、一角の権力者だとか。貴族位としては元侯爵にあたる血筋らしい。家の方は、もう親戚に譲っているようだが。


「あんま長く話しても、年寄の長話だと思われるし、この辺にしとくね! それじゃ! いい学園生活を!」


 そんな学園長の人柄を見て、クロウはいい学校に来たのかな、と思っていた。

 学園長はなんとも朗らかな人であり、そんな長が経営する学園は、そう悪い所ではないだろうと、そう思ったのだ。


 この直感は間違っていないだろう。


 そう思いながら、次のカリキュラム説明を受ける。


 学園のカリキュラムは単位制で、希望する講義を受けて、単位を取得し、取得単位が溜まった段階で17歳になる年度を迎えていたら、卒業という形になるようだった。


 17歳になる年度で取得単位が足りないと、18歳や19歳まで留年するという制度もあるらしい。20歳で放校という事になるようだった。


 クロウはそうした事柄を頭に入れながら、あとで配布されるという講義リストが載ったシラバスを熟読しようと思う。


 それから、会場を舞踏会場に移して、新入生同士の交流会が始まる。


 そのはずだったのだが……


「あ、あの……! クロウ……クロウさまっ……! わたくしと……わたくしと二人っきりで、お話していただけませんか……!」


 気づけば俺は、会場へ向かう途中の通路で呼び止められていた。


「わたくし、クロウさまの人形に、心を救われた思いでした……! 本当に、救われたのです……! それからというもの、毎日、毎日、クロウさまの事ばかり考えていました……! 毎日人形を使わせていただきました……! ですが、わたくしは王女で、しかも厄介な、とても厄介な存在です。そう思うと、ご迷惑をおかけするわけにもいかず、学園入学まで話しかける事が出来ませんでした……! ですが、やはりこの気持ち、抑える事が出来ません……! クロウさま……! あなたは一体何を考えて、あの人形を贈ってくださったのですか……!?」


 呼び止めたのは、誰あろうシェリ・アドゥルテル王女殿下。

 俺が300年前からずっと恋焦がれていた、〈恋の試練と向き合う者〉シェリその人だった。

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