第5話 パーティでの"再会"

 やがてパーティの時間が近づく中、宮殿までは馬車で向かった。


 そして、俺たち12歳を迎える子供たちは、一同に集められて、パーティの中央の大テーブルの周りに集まろうとしていた。


 今、テーブルの空気は、静かだ。


 みな緊張しているのだろう。ここからでも各自の思いの丈が伝わってくるかのようだった。


 それもそのはず、こうした場で子供が問題を起こせば、それはそのまま各貴族家間の問題に直結する。

 その事を親から口を酸っぱくして言われてきた少年少女たちは、ガチガチに緊張した状態でこのパーティを迎えているというわけだった。


「お兄さま、静かですね」


「アマナ、お前も黙ってろよ」


「アマナ、静かすぎると落ち着きません。お兄さまが何か楽しい話をして、テーブルを盛り上げてくださいな」


「ハードル高いわ、無茶言うな」


 気づけば俺とアマナだけ、そんな馬鹿話をしている状態となっていた。

 すると……


「あなた達、今世ではそんな感じなの。エッセ、羨ましい」


 テーブルを歩いて近づいてきた少女が、突然話しかけてきた。


 黒髪を綺麗なストレートロングヘアにして、真っ赤なリボンをあしらった少女。

 どこか虚空を覗いているような気になる美しい大きな茶色の瞳は冷たげに光っている。唇もキュッと引き結ばれていて、どこか不機嫌そうだ。


 俺は彼女の事を良く知っていた。


「久しぶり、だな。エッセ」


「今はエッセ・ニヒールム。ニヒールム侯爵家の長女……よろしく」


 ぶっきらぼうに述べられた挨拶の言葉も、今は懐かしい。


 彼女、エッセ――

 エッセ・ニヒールムは――


 単に前世における、〈試練と向き合う者〉仲間、というだけではない。

 彼女は、俺が孤児だった時代からの、幼馴染だ。


 アマナとも面識がある彼女は、当時〈無の試練と向き合う者〉エッセと呼ばれていた。


「相変わらずだな、お前」


「ふふっ。クロウも、相変わらず、陰気」


「エッセですか……お元気そうで何よりです」


「アマナも。相変わらず、めっちゃ可愛い」


 エッセとアマナは、絆を確かめ合うように、ギュッと抱きしめ合った。


「……お兄さま。エッセと二人、旧交を温めてきてもよろしいでしょうか」


「ああいいぜ、いってきな」


 そういって、二人は大テーブルの隅に移動し、人気のない辺りで会話を始めた。


「あいつら、あんな仲良かったっけな」


 昔の記憶がだいぶ飛んでいる俺は、そんな言葉をつぶやくのだった。


「面白そうなお話をしていましたね」


 その時、突然背後からテーブルに近づいてきたらしい少女に話しかけられた。


 振り返った瞬間、雷がつんざくような衝撃が俺を襲った。


 金髪の髪の毛を左右に集め高級そうなリボンでくくり、細い三つ編みにして腰より下まで伸ばした、高貴な雰囲気の髪型。

 着ているドレスは純白に白薔薇をあしらった、これまた高貴さで一杯の代物。

 

 そして、その胸には、王家のものを示す紋章が記されていた。


「王女殿下……」


 驚いたのは、彼女が王女だからでも、少女の相貌が、この世のものとは思えないほど可愛らしく、それがにこりとした微笑みを俺に向けているから、でもない。


「……久しぶりですね、クロウ」


 そう、俺はこの王女様と、過去に会った事があった。


「久しぶり……シェリ」


 その過去とは、もちろんこの現世ではない。


 そこにいたのは――


 300年前、俺が恋してやまなかった、少女だ。


「シェリ・アドゥルテルと名乗っています。またよろしくお願いしますね、クロウ」


 その魅了するような声で言葉を受けるだけで、胸がきゅっと締まるような感じがして、張り裂けそうな思いで一杯になる。


 俺は、この少女への恋が、恋敗れた事が、今でも忘れられていない……


 彼女の名前はシェリ・アドゥルテル。

 300年前、〈恋の試練と向き合う者〉シェリと呼ばれていた存在で――

 

 300年前〈試練と向き合う者〉だった少年たちは、みなシェリに恋していた。

 それは例外なく、俺も含めて。


 思春期の少年少女が集っていた〈試練と向き合う者〉達において、シェリは、圧倒的に可憐で、圧倒的に儚く、圧倒的に魅了されるような存在だった。

 そしてシェリは丁寧で優しい性格をしていた。


 シェリを愛さない少年は、いなかった。


 だが少年たちは、誰もシェリを射止める事は出来なかった。

 

 シェリは何かに堪えかねて、そのまま命をひっそりと断ってしまったからだ。


 シェリ・アドゥルテル。


 かつての圧倒的といってもいい美しさ、可憐さをそのままに残して転生した、魅了の力を持つ少女。


 彼女との出会いは、俺の心を大いにざわつかせるものだった――

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