第19話 騎士
騎士とは民の力となる者の名だ。
幼いカイルは父の話したその言葉に憧れた。騎士になることを許される立場の自分は、なんて幸福なんだ。そういう希望を彼は抱いた。
十歳の頃だ。カイルがその希望に蝕まれ始めたのは。
父や家族の中に、カイルの憧れた騎士が誰一人いないことに彼は気づいてしまった。
家族への疑念を抱くようになった。
特に信頼していた父への疑念は、カイルをひどく悩ませた。
そんな時期に、だったか。彼は、一人の少女に出会った。
知らない子だ。ただ、笑顔がとても眩しい女の子だった。
カイルと彼女の性格は随分違ったが、不思議と馬が合い、二人は一日で随分仲良くなった。
家のことなど忘れて外を走り回り、暗くなったら火の起こし方を教えてもらった。
火を挟んで、カイルは悩みを打ち明けた。すると少女は、あっさりとこう言った。
「カイルの中に何を置くかは、カイルが決めなきゃダメなんだよ」
幼いカイルには少し難しい言葉だったが、それでも確かに、救われた気がした。
十歳のカイルは顔を上げた。
ライラによく似た少女の笑顔が、オレンジ色に照らされていた。
そしてその後、次の日から今に至るまで、カイルがその少女の姿を見ることは一度もなかった。
「そっか、だから……」
呪いが効かないわけだ。とライラは思った。
既にこの顔への好感があるのだから。
「てことは、昔好きだった子に似てるからワタシに協力したってことか」
「言い方悪いな。……好きだったなんて言ってないだろ」
「どうしてワタシにその話を?」
以前に話した旅の動機が嘘でないのなら、別に構わないのではないか。 と、そう言っているようにカイルは捉えた。
「己が行動する理由もはっきりしないようじゃ、一流の騎士にはなれないからな」
「そうなんだ」
「そうだ」
「話したら、はっきりしたの?」
二秒考える。
「まあ、最初と変わらない。あの子が何者だったのか、それも含めて僕は自分で確かめる。ライラとの旅の先で何かわかるかもしれない」
「騎士って、大変だね」
「確かにな。けど大変だからこそ憧れることができる」
「ふうん」
そこからは書くに及ばないようなくだらない話に花が咲いた。
しかし長くは保たず、野宿に慣れないカイルですらすぐに寝た。
ライラによく似た顔の人間。ライラは今まで一度も見たことがない。
カイルにとっても十数年前にたった一日だけ関わった少女だ。彼の話の中だけではイメージがかなり断片的で、はっきりしない。
とはいえ混在の呪いが誤作動を起こすほど似ているならば、ライラも一度会ってみたいと思った。
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