最終話 不死者には才能がない

 その後、俺たちは遺跡から脱出した。

 帰り道の瓦礫は一部にちょうど人が通れるように綺麗に空間ができていた。

 おそらく錬成魔法と言う奴だろう。イフナはあんな状態でもきちんと帰り道を作ってくれたわけだ。


 遺跡から出ると街には戻らず、森の中を通って小屋へと帰った。

 纏っているのが布一枚では当然だが、帰る途中、肩に乗るクリスタは一度も目を開けなかった。

 その途中で疲れがきてしまったのか、小屋につく頃にはクリスタは眠っていた。

 クリスタを寝床に寝かせ、俺も寝間着に着替えてベットに倒れるなり泥のように眠り、翌朝、ベッドと寝間着をすすや土だらけにしてクリスタにこっぴどく叱られてしまった。

 水浴びくらいはするべきだっただろう。


 次の日。俺たちは傭兵ギルドに向かった。

 依頼完了の報告はいつもクリスタに任せていたが、今回は違う。

 遺跡を崩落させ、重要な遺物であるリアクターを破壊、遺跡から何も持ち帰れず、地図も不十分。

 ギルドの職員に事情は話したが、おそらく半分も信じて貰えなかっただろう。


 というか、イフナのことはぼんやりとしか話さなかったし、もしかしたら全て嘘だと思われたかもしれない。

 そんな訳で違約金こそ取られなかったものの、当然報酬はナシ。

 残る二件の指名依頼も取り消されてしまった。


 だが悪い事ばかりではない。

 俺の顔はギルド内で知られて居なかったため、フード付きローブを羽織り、クリスタの姿を隠していくらか聞き込みをしたのだが、「不死身のヴァリウス」について話す人はほとんど居なかった。

 唯一一人だけ、スキンヘッドの屈強な傭兵が言うには。


「あいつには期待してたんだがな、まあその程度の奴だったって訳だ」


 だそうだ。

 つまり俺たちは傍から見れば、新参者の傭兵が、調子に乗って指名依頼を受け、ヘマをして逃げ帰って来た。と言う風に映った訳だ。

「不死身のヴァリウス」の異名は失望によって消え、名声は地に落ちた。

ということは...


「もう旅立たなくても良くなりましたね」

「ああ」


 俺たちは傭兵ギルドから出て、小屋に向かいながらそう言う。

 堂々とギルドに入れば冷たい目で見られくらいはするだろうが、わざわざ俺たちの後を付けたり、探ったりする者はいないだろう。不死身のヴァリウスの名を真に受ける者もいない。

 つまり住処を変えなくてもよくなったという事。

 住処を変えなくて良くなったということは、それだけ旅費や旅立ちの道具を節約できたということ。

 色々あったが、結果的には良かったのだろう。


「とは言ったものの...これからどうするかなぁ...」

「これから、と言うと?」


 俺がそう言うと、クリスタは俺の横を飛びながら問いかける。


「ほら、燃えた分の装備品や、剣の修理費で金はほとんど使い切っちゃったし、今日の分の食料だって買って無い。それに...」


 俺はそのまま黙ってしまった。

 沈黙に耐えられず、クリスタが口を開く。


「食料なら、小屋に数日分の保存食がありますし、お金ならその間に稼げばいいですが、問題は……彼女のことですね?」

「ああ……」


 結局、イフナとはあれから会えていない。

 遺跡から家に帰る途中も、今日街中を回る間も、彼女の姿は見当たらなかった。

 俺が街まで出かけたのは、彼女に謝罪したかったからというのもあったのだが……


「大方認識阻害のフードを使って、街の探索でもしてるんじゃないですか?向こうも突然全裸で抱きついてくる変質者になんて会いたく無いでしょう?」

「その話は止めてくれ」


 昨日の事は本当に後悔してる。

 クリスタの軽い冗談が俺にはキリングブローのように感じられた。


「でもまあ、きっと彼女は大丈夫です。私と戦っていた時の彼女はとても悲しい……全てに絶望したような目でしたが、ヴァリウスに言葉をかけられた彼女の目は、何というか凄く...生きていました」


「……そうか」


 彼女が、もう一度生きる喜びを知ってくれたらいいが...

 クリスタの言う通り、きっと大丈夫だろう。

 視線の先に小屋を捉えながら、俺はそう思った。


「さあ付いたぞ、今日は疲れたしちゃんとご飯を食べてから、ゆっくり休もう。昨日は丸一日何も食えなかったからな!」


 そう言うと俺はドアノブに手をかけ……?


 ドアが...空いてる?


「ヴァリウス、中に誰かいます」


 クリスタが声を小さくし、俺に警告する。


「クリスタは下がってろ、俺が行く」


 そう言うと俺は修理したばかりの剣を構え……


『ガチャ』


 ドアを開けた。


「おかえり!」

「はっ?うおっ!?」


 何かが俺に抱きついてきて、俺は剣を下げ困惑の声を上げてしまう。


「……っと済まない。取り乱してしまった」


 何かは俺から離れ、俺はそれを視界の中心に捉えた。

 赤い髪にフードを外したローブ。

 その姿は間違いなく


「「イフナ!?」」


 彼女そのものだった。


「どうしてここに!?」


 俺はイフナに問いかける。


「あの後……勢いで飛び出したはいいが、どうしても君たちの事が気になってしまってね、コッソリ後を付けていたんだ」


 ……全く気が付かなかった


「その後、この小屋にたどり着いたはいいが、君達が寝てしまったから勝手に入るのも悪いと思って外で野宿したんだけど...寝過ごしてしまって...仕方ないから、中でこうして待っていたのさ」


 どうやら彼女は家の近くで野宿を……と問題はそこではない。


「どうして家の中にいるんだ!?」


 俺が家を出る時、鍵をかけたはず、何故平然と中に……?


「錬成魔法を使わせてもらったんだけど……あいにく腕がそこまで良くなくてね……そのカギは……」

「あーっ!カギ穴がぐっちゃぐちゃです! ぐっちゃぐちゃ!」


 クリスタがドアの鍵を除きながら叫ぶ。


「本当にすまないと思ってる」


 イフナはバツの悪そうな顔でそう言った。

 イフナがここにいる訳は分かったが、まだ疑問はある。


「この匂いは……?」


 そう、匂い。

 小屋の中からは何やらいい匂いがする。

 花やハーブの匂いではない。お腹に訴えるようなこの匂いは……


「ああ、君たちは昨日から何も食べていないだろう?不死の身でも空腹は辛いものだ。とはいえ余り料理は得意ではなくて……倉庫の食材を全部使ったんだが……」


「「全部!?」」


 俺たちは同時に驚愕の声を上げる。

 もしすべて使ってしまったのなら明日のご飯は……?


「……ふっ、冗談だよ。流石に全部は使ってない。明日の分くらい残ってるさ」


「「なっ……はぁ……」」


 俺たちは同時に肩を下げた。


「冗談も言えるようになったんですね、イフナ」


 クリスタは少し微笑みながらそう言う。


「ああ……おかげさまで」


 そう言うとイフナかこちらにニコリと微笑み……


「……だが、本当にいいのか?」


 次の瞬間、不安そうな表情になる。


「何がだ?」


「私なんかが本当に、君たちと一緒にいていいのか?」


 今更な質問だ。答えは決まっている。


「ああ、いいさ。そのつもりで声をかけたんだ」

「私も、悔しいですけど、気に入っちゃいましたしね」


 俺たちがそう言うと、イフナは顔を拭い、再び微笑んだ。


「さあ、ご飯が冷めちゃいます。早く中に入って皆で食べましょう」

「ああ、そうしよう。さっきは噓を付いたが、料理には自身があるんだ」

「ほほう……果たしてこれまでヴァリウスにご飯を作り続けてきた私に適いますかね……?」

「無論、負けるつもりはないよ」


 クリスタとイフナも打ち解けたようだ。

 これからの事、不安がないわけじゃない。

 でも笑顔で冗談を言い合う二人を見ると、きっと大丈夫だろうと言う気持ちになれた。


「とりあえず腕を見させて貰おうか、クリスタの飯を食い続けてきた俺の審査は厳しいぞ?」

「ふふん、望むところだ」


 そう言って俺たちは食卓についた







「そう言えばヴァリウス」

「なんだ?」


「貴方の口癖の、『不死者には才能が無い』っていう奴についてですが...彼女、魔法もできますし、料理もまあ...悪くありませんでした、ひょっとしてヴァリウスの才能云々って不死者に関係……」


「……それ以上言わないでくれ」




 不死者ヴァリウスには才能が無い 終


=====

ここまでご覧いただきありがとうございました。

私自身が中学生の頃に書いた短編を、ほとんどそのまま投下してしまったため、お見苦しいところもあったと思います。

それでもなお最終話までご覧いただき、本当にありがとうございました。

よろしければまたお会いしましょう。

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不死者には才能がない ビーデシオン @be-deshion

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