第15話 種明かし
「危機一髪だったな」
「全くです。遅いんですよ、ヴァリウスは」
ギリギリだった。
先程まで燃えていたせいで、俺の身体はすすだらけである。
ファイアストームを食らった後、俺の身体は炎に包まれた。
身体は再生するそばから燃料と化し、俺は意識があるまま焼かれ続けていた。
だが永遠に思える苦痛の末、俺の身体は唐突に消火された。
おそらくはクリスタが起こした崩落によって瓦礫が体に降り注ぎ、土煙と衝撃によって俺を包んでいた炎が押し消されたのだろう。
がれきも小さく、これなら脱出できると思ったところで、その声が聞こえたのだ。
「出来ないんだよ!私は!死にたくても死ねないんだ!」
その叫び声が耳に入った瞬間、俺は冷静になった。
事情を完全に理解したわけでは無い。それでも嘘ではないと分かる気迫がそれにはあった。
どちらにせよ正面から突撃して勝てる訳がない。
だから俺はいつか来るチャンスに備え、少しずつ瓦礫をどけ、目と耳だけは使えるようにして、剣を探り当て、握り、すぐにでも動き出せる体制のまま待ち、唐突に訪れた衝撃に耐えて、俺は待った。
「今、リアクターを壊したら、私は助かりますか?」
その一言を聞いた瞬間、飛び出した。
前方で杖を向ける女性は無視し、ただ一つの事だけを考えた。
いつかのトレーニングにて、偶然掴むことができた感覚。
剣を投げてリアクターを壊せたおかげで、俺たちは今、無事でいられている。
「どうして...」
そしてその「俺たち」という括りには、あの女性も含まれていた。
「どうして私を助けた!魔力の奔流に巻き込まれれば死ねたかも知れないのに!」
女性が叫ぶ。
地に手を付け、嘆く女性を見ると、怒りの感情よりも悲しみが際立っているように見えた。
彼女の様子に圧倒されたのか、クリスタは小さな足で後ずさる。
だが俺はむしろ女性に近付いた。
今の彼女となら話ができるはずだ。
「ヴァリウス」
「大丈夫だ」
クリスタはきっといつものように、危ないと言おうしたのだろう。
だが俺は不死者だ。少なくとも死ぬ心配はもう無いのだ。
「あんた、どうしてそんなに死にたいんだ?」
「簡単だよ、私は死ねない。不死者なんだ」
女性がそう言うと、俺は眉をひそめる。
「そんなのは理由にならない」
俺は不死者だが、死にたいと思った事は...一度しかない。
正直なところ、不死者だから死にたいというのは俺にとって少し引っかかるものだった。
「なるさ! 私が不死者だから、関わる人全てが不幸になった! 私は生きてちゃいけないんだ!」
しかし女性の言葉で俺は察することができた。きっと彼女には何か壮絶な過去があったのだろう。
女性は叫び終わると、膝を付いて泣き出した。
今、俺が彼女に出来ることは...
「話してくれ」
話を聞いてあげることだけだろう。
俺がそう言うと女性は俯いたまま自分の過去を語り始めた。
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