第14話 信じて


「私は貴方のせいで、崩落に巻き込まれ仲間を失ったんです」



 勿論ヴァリウスはまだ無事でしょうが、私たちは完全に女性に巻き込まれた被害者あることには違いありません。

 ヴァリウスが不死者ということはまだ明かしていませんし、女性から見れば死んでしまったように映っているでしょう。

 この女性に罪悪感という感情があればいいのですが……



「……その通りだ」



 どうやらあるようです。

 これなら……



「貴方が死にたくて、私を殺そうとしているのは理解しました。でもまだ分からない事がいくつかあります。私の質問に答えて下さい」

「……いいだろう」



 よし、とりあえずこれで一つ目の問題はクリアしました。

 後はしばらく適当な質問を続けるだけ……



「まず部屋から出ると蓄積された魔力が放出されてしまう。と言う話ですが、部屋から出てもまた魔力を集め直せばいいんじゃないですか?」



 これは本当に疑問に思っていたことです。

 蓄積された魔力が元に戻ってしまったところで、集め直せば良い話。

 多少面倒ではあるでしょうが、私の相手をするよりはマシだったでしょう。



「……リアクターは、魔力を集積してくれるが起動するのに莫大な魔力を使う。私にそれだけの魔力は残されていないし、一度充填をやめたものを再起動できる保証もない。だから部屋は離れられない」

「なるほど……」

「質問が終わったなら……」

「いくつか、と言ったでしょう。まだ質問は終わってません」



 質問には答えてくれましたが、女性は充填に集中したいようです。

 無駄な質問をすれば、答えを待たずに殺されるかもしれません。

 ここは無難な質問にしましょう。



「さっきの……というか今までの衝撃はなんですか?原因はリアクターにありそうですが」

「限界を超えて魔力を充填していると、リアクター自体が魔力を放出しようとしてね、抑え込まないとそうなる。一回目は魔物が沸いて中断、二回目と三回目は何もしていないのに放出、さっきのは……中断したせいだ」



 三回目の放出は偶然だったようです。やはりヴァリウスは運が悪いのでしょう。

 4回目の中断の理由は恐らく気が散ったからでしょう。

 もしかしたら今の充填も何か気が散る事を言えば中断させられるかもしれませんが、次の瞬間には殺されるでしょう。



「もういいだろう、そろそろ君を殺さないと君も消滅する事になるぞ」



 しかし女性はかなりきているようです。そろそろ限界も近いでしょう。

 質問もそろそろ思いつかなくなってきました今すぐ問えることと言ったら…



「どうしてそこまでして私を殺そうとするんですか?消滅したとしても死ぬことに代わりは無いのでは?」

「何故って、君は妖精だ。妖精は死んでも生まれ変われるんだろ」

「……そんなわけないでしょう」

「……そうなのか」



 ……意外な反応ですね。

 おとぎ話でも信じていたのでしょうか。

 妖精だって、普通に生きているし、普通に死ぬのです。

 私には、まだやりたいことがあります。



「私は死にたくありません。あなただって、本当は死にたくないのでは?」



 つい、話の流れで油断して。

 私がそんなことを言った瞬間でした。



『ドォン!!!』「きゃっ!」



 魔力の放出。これまで何度も受けてきた衝撃が私を襲いました。



「……その質問には答えたくないな」



 女性は杖を下ろし、こちらを向きます。


「戻れ」

「っ!」



 女性がスプライトウェブを体内に戻し、私は地面に落ちます。



「やはり君といると気が散ってしまう。質疑応答は終わりにしよう」

「そんな……」

「今すぐに選ぶんだ、今すぐ死ぬか、存在ごと消滅するか」



 私を握る手に力を込め、死んだ目でこちらを見つめる女性を前に、私は……



「最後に……」

「なんだ」



 疑問に思った事を、すぐに口にだしてしまうのは私の悪い癖です。

 だけど、今回ばかりは言わないわけにはいきません。

 言わずに、死んでやるやけにはいきません。



「最後に。今、リアクターを壊せば、私は助かりますか?」



 私は、信じていますから。

 この一言が、彼を突き動かしてくれることを。



「何を……」

『ガラン!』



 暗闇の中、瓦礫の山から人影が飛び出します。

 人影の手には剣、飛ぶように走り、女性に近づいていきます。

 女性は驚いた表情で杖を向けますが、間に合いません。


 その人影、真っ黒な人は剣を大上段に構えています。

 いつも通り、短絡的ですがそうですね。

 今回ばかりは、それがベストだと思います。


「お願いします! ヴァリウス!」


 返事は、いつか聞いた叫び声。

 彼はただ、その手に持った長剣を。

 思いっ切り振り投げました。



「なっ!?」



 女性の背後のリアクターに向かって!



「ガシャン!!」



 リアクターにヒビが入り、隙間から光が漏れ出します。

 魔力の放出が始まったのです。


「逃げるぞ!」



 一面の視界に映るのは、黒焦げになったヴァリウスの顔。

 いつも通り、憎たらしいほど必死な顔。



「私は、あなたのそういうところが――」



 おっと、また口から出てしまいましたね。

 まあ、その前に部屋中を光が覆いつくしましたから。

 きっと聞こえてはいないでしょう。

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