第13話 魔力超過
「死ぬと言う言い方は適切ではないか、正しくは……消滅する」
女性はリアクターに杖を向けながらそう言いました。
消滅する? どういう事でしょうか
「私が魔力を集積しているのは見ての通り、だがリアクターはもうすぐ容量の限界を迎える」
「限界……?」
容量の限界、魔道具には必ずあるものです。
簡単なのは杖、あれも魔道具の一種、素材自体が魔力を増幅したり、予め魔力を貯めておく事で放つ魔法の威力を高める事ができますが、限界もあります。
限界は素材によって異なりますが、そのどれもが共通の性質を持ちます。
それが魔力超過。魔道具が不可に耐えられなくなり、限界を超えた際に引き起り、圧縮された中の魔力が一気に放出されることで爆発的なエネルギーが発生する。
多くの場合は魔道具自体が破損するだけで済みますが、このリアクターに蓄積された魔力は莫大なものです。もし限界を迎え、魔力超過が発生したら……
「君も理解したみたいだね」
その時の私の顔はきっと青ざめていたのでしょう。
「私は莫大な魔力容量を持つリアクターを魔力超過させ、魔力爆発を引き起こす」
「そんな事をしたら……!」
「ああ、この遺跡……それどころかこの山ごと吹き飛ぶかもしれないね」
女性はさも当然のように答えます。
「分かってるならなんで……!」
「それが目的だからさ、私は死にたいんだ」
死ぬことが目的?言っている意味が分かりません。
というかまず何故女性は柱に押しつぶされて生きているのでしょうか?死ぬことが目的なら防御魔法を使った訳でも無いでしょう。
第一彼女ほどの魔法使いなら私を殺さずに帰り道の瓦礫をどかす事もできるはずです。リアクターの魔力だってまた集積し直せば……
あーっもう!
「死にたいなら勝手に死ねばいいじゃないですか!」
理解できない事が続き、私はいつの間にか叫んでいました。
本当にただ叫んだだけ、何か魔法を使ったわけでもありません。
『ドォン!!!!』「きゃあ!!」
しかしその瞬間、リアクターと呼ばれたソレが光り輝き今までと同じ衝撃が私を襲いました。
女性の手から零れ落ち、地面に打ち付けられます
「はぁ……またやり直しだ」
かなり大きな衝撃だったにもかかわらず、女性は立ったまま項垂れそう言います。
「……君は勝手に死ねばいいと言ったね」
そう言って女性はローブの中に手を突っ込むと、ローブを半身脱ぎ払い……
「何を……?」
「出来ないんだよ!私は!」
『ザクッ!』
「えっ!?」
何をやっているのでしょう。
女性は自分の手首に短剣を突き刺し
「死にたくても死ねないんだ!」
腕を伝って首元まで、中の肌着ごと自身の体を切り裂きました。
「えっ……えっ?」
しかし信じられないのは女性の体から一切血が吹き出ないこと。
それどころか彼女の傷はどんどん塞がっていきます。
治癒魔法?いえ、彼女が魔法を使った様子はありません。
何かしらの奇術?いえ、私はもっと簡単な答えを知っています。
ずっと身近に居た、ヴァリウスと同じ。
「不死者……?」
「…………そうだ」
女性は自身の首から短剣を引き抜くと、そう言ってローブを着なおします。
「……これで分かっただろう、並みの手段じゃ私は死ねない」
「だったらどうして……」
「どうして魔力爆発を起こそうとしているのか。簡単だ」
女性は再びリアクターに杖を向けます。
「魔力というのは、何かに取り込まれようとする性質を持つ。でもその何かより魔力の塊の方が大きかった場合、今度は逆にそれを取り込もうとするんだ」
スライムがいい例でしょう。
スライムは魔力の塊が意思を持ったもの。ですがその行動は取り込まれようとするのではなく、取り込もうとするもの。
それはスライムを構成する魔力の濃度がとても高く、大体の物はスライムよりも魔力濃度が低いため。
実際、それと同じ説明を女性は私にしました。
「だから私は思うんだ。例え不死者であってもその体全てを魔力に分解されれば消滅する……つまり死ぬことができるんじゃないかと」
「…………」
「君も巻き込まれれば消滅してしまう。そうなるよりは先に死んでしまった方がいいだろう?」
理にはかなっています。
だからこそ、私は彼女を止めなければいけません。
きっと今もヴァリウスは瓦礫の下で埋まっているでしょう、そんな彼でも、魔力爆発に巻き込まれれば消えて…死んでしまうかもしれない。
今の私に出来ることは少ないです。
魔力は尽き、身体は拘束され、動かせるのは口だけ。
「……説明は終わりだ、何も無いなら私は君を……」
「待って下さい」
ならば私は出来る事をするまで。
一つの可能性に賭けて……時間稼ぎを!
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