第12話 リアクター

 タイミングを間違えれば死、外しても死、失敗は許されません。

 私は腕に魔力を込め……


「ふんっ!」


 次の瞬間、私は思いっ切り跳び上がりました。

 飛行ではなく跳躍。浮遊魔法の応用で無理やり跳び上がったのです。

 私は柱に沿うように側面へ飛び上がり


「ノルブラスタ!」


 柱に片腕を向け、中級の爆破魔法をぶっ放しました。


「なっ!?」「ぐぅっ!」


 女性が驚きの声を上げると共に、私は吹き飛びます。

 通常、反動の強い魔法の詠唱時には衝撃を緩和する魔法も同時に唱える物です。

 ですが私は唱えませんでした。

 魔力の消費量を抑えたかったというのもありますが、本当の理由はまさに吹き飛ぶため!


「ノルブラスタ!」


 私は空中でもう片腕から改めて魔法を放ちます。

 二つの魔法を使ったのではありません。ついさっきまでこれらの魔法は一つでした。

 妖精は魔法生物。その腕には魔力を増幅する機能が備わり、言わば生まれ付き杖を二本持っているような物。

 基本的には腕を束ねて魔法を放ちますが、途中で二つに分けることも出来ます。

 勿論魔法の威力は半減しますが、今回の目的にはそれで十分!


 放たれた爆破魔法は直進して女性の元へと向かい……


『ドォン!!』


 女性の頭の上を通過しました。


「くっ!何の……」

『ベキッ』


 何のつもりだ。女性は多分そう言いたかったのでしょう。

 女性が言い終わる前に答えは倒れて来ました。


『ベキベキベキッ!』

「っ!?貴様!」


 異変に気が付いた女性が走り出します。

 熱によって脆くなり、ひび割れた柱はとても簡単に折れるもの。爆破魔法なんて当てられたらひとたまりも無いでしょう。

 柱は天井を巻き込み、無数の瓦礫を降らせながら……


『ドガァン!!!』


 前方へと飛び込んだ女性の背後に倒れました。


「ぐっ!」


 私の体は勢いを失い、再び地面に叩きつけられます。

 先程とは違い今回は落下しただけ。軽い私に大したダメージはありませんが……


「ふふ……」


 飛び込み、うつ伏せに倒れた女性が笑います。


「ふはは!何やら企んでいたみたいだけど、失敗だね!今度こそお前は……」


 膝立ちになってそう言う女性を横目に私は……


「上、気を付けた方がいいですよ」


 耐衝撃体制を取りました。


『――ガラガラドシャンッ!!――』


 私が放った二発は両方とも柱の根本に命中していました。

 一発目は吹き飛ぶ事を優先したこともあって少し威力は落ちましたが結果的にはそれで良かったようです。

 時間差で倒れた柱は女性を押しつぶし、瓦礫が追い打ちをかけるように降り注ぎました。


「ちゃんと警戒してれば避けられたかもしれないのに」


 私はそう言って仰向けに地面に転がって天井を見上げます。

 4本中2本の柱が倒れた事で、部屋が崩壊してしまうかも、と思っていましたがその心配は無かったようです。

 残る二本の柱が頑強だったから?


 いいえ、むしろその逆です。

 入った時も何と無く気が付いていましたが、この部屋の天井はとても薄く、降り注いだ瓦礫も少ないものでした。

 柱は言わばハリボテのような物で、簡単に倒れたのもそのおかげです。

 ではその上に何があるのか、答えは見れば分かります。


「凄い機構ですねぇ……」


 数十本もの太い管が中央の球体の上に繋がり、その先は右左前後ろ斜め上へ様々な方向へと伸びています。

 私は古代の遺跡には詳しく無いので何の装置なのかは分かりません。


「とりあえず……ヴァリウスを助け出さないと……」


 私は起き上がり、右足を軸に立ち上がると


「ぐうっ……」


 そのまま崩れ落ちました。

 どうやら体を酷使し過ぎたようです。

 今度こそ私の体は動きません。

 魔力も先程ので本当に全て使い切りました。

 もう一瞬浮き上がることすら出来ないでしょう。


「ごめんなさいヴァリウス……少しだけ……待っていて下さい…………」


 私は地面に伏し、そう言いながら目を閉じました。










『ドガアァン!!!』

「えっ?」


 何が起きたのでしょう。

 私は目を開き、顔を上げます。

 視界の中心に捉えたのは折れた柱。根本からだけではなく、真っ二つに……


「スプライトウェブ」

「きゃあ!?」


 折れた柱の間から魔力の網が放たれ私の体に取り付きます。

 土煙の中心に現れたのは人影。

 杖を持っていることから間違い無くあの女性だと分かります。

 一体何が起こっているのでしょう。

 女性は確かに柱に押しつぶされたはず。


「どうして!?」


 疑問は口から出ていました。

 女性は答えず、ただこちらにコツコツと歩いて来ます。

 土煙が晴れると、女性のフードが剝がれているのが分かります。

 鮮やかな赤い髪を伸ばし、こちらに向かう女性。

 その肌や髪には汚れこそ付いているのものの、傷一つありません。


「分からないという事は、本当にあいつらの仲間ではないんだね」


 女性は私の前で立ち止まり、スプライトウェブに巻かれた私の体を持ち上げながらそう言います。

 私は抵抗しますが、魔法を使えず、非力な妖精に出来ることはありません。


「でも残念だけど君を殺す以外の方法でここから出すことは出来ない、私が部屋から出るとリアクターに蓄積された魔力が戻ってしまうからね」


 そう言うと女性私を片手で握るように持ち上げたまま、中央の光り輝く球に近づきます。

 リアクター、おそらくこれの事でしょう。

 複数の管は自然の魔力を山から吸い出すための物で、異常な魔力はそれによって集積されたもの。

 ですが分からない点がまだあります


「……あいつらの仲間ではないと自分で言ったのにどうして私を殺そうとするんですか?」


 敵ではない事は分かったはず、ならばどうして……


「簡単だ。このままここに居れば君は死ぬからだ」

「は?」


 私が死ぬから私を殺す?

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