第6話 崩落
「おいおい……嘘だろ……?」
「これはビックリですね……」
俺たちは先程建てた目印を見下ろしていた。
「高いな……」
恐らく大の大人が10人連なっても届かないであろう高さから、目印として建てた微かに燃える松明を覗く。
「飛び降りますか?」
「馬鹿言うな」
確かに俺なら飛び降りても死ぬことは無いし、クリスタは飛べば降りられる。
だが不死者とはいえ痛みは感じる。この高さから落ちれば文字通り、死ぬほど痛いだろう。
「この先はもう見た分かれ道だし、引き返してまっすぐ行こう。左の通路を探索するのはその後でも遅くないだろ」
「左の通路さえ探索出来ればもう帰っても良いと思うんですけどねぇ」
あの後、直線通路をしばらくまっすぐ進むと右側に脇道があった。
クリスタが言うには右側から進んだ方が地図作りが楽だそうで、俺たちは嫌な予感を抱えながらも進んだわけだ。
道中魔物が出ることは無く、安全にここまで来ることができたのだが……問題はそれである。
「ここまで魔物が出ないってことは、やっぱりあの女だよなぁ……」
「まあ……ですねぇ……」
恐らくはあの女性は先にこの道を通っていたのだろう。
引っかかるのは道中やけに焦げ臭かったこと。
炎を扱うような魔法の痕跡が、いくらか残っていたように思う。
「ヴァリウスは気付かなかったかもしれませんが、道中の部屋、倉庫だったみたいです。焼け焦げて役に立つ物は一切ありませんでしたが、恐らく彼女はあの部屋で魔物と戦闘したんしょうね」
あの部屋に黒く、大きな折れ曲がった棒状のものがいくつか転がっていたのを思い出す。
あの時は気付かなかったが今思えばアレは魔物の残骸だったのだろう。
おそらくそれは、大きな蜘蛛の魔物。
大量の大蜘蛛たちを、彼女は一人で倒したことになる。
「……なあやっぱり引き返し」
そう思って、俺がクリスタの方を向いた瞬間だった。
『ドン!!!』
「うおっ!?」
地面が大きく揺れる。
地震にしては突発過ぎる揺れ、まさかとは思うが……
「ヴァリウス!左の通路の先から強い魔力の反応を感じます!」
やっぱりか。
あの女性が、なにかしでかしたらしいな。
そう口に出す前にある事に気付く。
「天井が崩れて来てる! 早く脱出しないと生き埋めになるぞ!」
天井から小石が剝がれ落ち、土が降りかかる。
生き埋めになってしまえば不死者であろうと関係ない。
永遠に山の下で身動きがとれなくなってしまうだろう。
それに第一クリスタは不死身でもなんでもない。
もし岩に押しつぶされでもすればそれで終わりだ。
一刻も早く脱出しなければ!
「ヴァリウス!時間がありません、剣を預かるので飛び降りてください!」
そう言うとクリスタは俺の背中に止められた剣を虚空へとしまう。
正直かなり無茶な命令だが、この状況ではそれが最適解だろう。
考えている時間は無い。
そう言い残してクリスタは、下方に向かって飛んでいく。
「この状況じゃそれしかないな畜生おおおおお!!」
覚悟を決めて飛び降りた。
『ぐしゃ』
視界が暗転する前に映った、最後の光景は。
飛ぶクリスタを俺の体が抜かす様。
「っ!はあ!!」
全身を襲う激痛を無視し、粉々になった骨が元通りになるそばから立ち上がる。
視界も遅れて明転してきた。
頭がガンガンするが、痛覚にはなれっこだ。
「ヴァリウス!こっちです!」
どうやらクリスタは既に、少し先の分かれ道の方ににいるようだ。
痺れる全身を無理やり動かし、ぎこちなく腕を振って側に向かう。
「まるでくず鉄でできたゴーレムみたいですね」
「うるせぇ」
分かれ道に到着したところで、クリスタがいつも通り俺をからかう。
どうやら帰り道は塞がっていないようだ。
ひとまずは、安心といったところか。
「とりあえず、今日は帰りましょう。せっかく地図を作れても遺跡が崩れたんじゃ意味がありません。傭兵ギルドも詳しく話せば納得……」
その時だ。
『ピキッ』
クリスタの飛ぶ場所の天井にヒビが入った。
「クリスタ!!」
考える前に足を延ばし、クリスタに飛びつき、体を掴む。
クリスタが小さく悲鳴を上げるが、気にせず後方に投げ飛ばす。
「くっ!」
俺は飛びついた慣性に抗い、体を反転させる。
分かれ道側に向かって跳ぶ。
……跳ぼうとした。
『ガラガラドシャッ!!』
抵抗むなしく、間に合わず。
俺の体を、降り注ぐ瓦礫が押しつぶした。
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