第5話 調査開始

「あの人、明らかに怪しかったですねぇ」

「そうだな」


 身なりこそねずみ色のフード付きローブと地味なものだったが、あの杖に魔法の正確さ。恐らくかなり腕の立つ魔法使いだろう。

 何故そんな人物が一人で、こんな遺跡に来るのだろうか。


 本来魔法使いというのは何人か仲間を連れているものだ。

 熟練の魔法使いなら、一瞬で詠唱を済ませることもできるらしいが。

 それでも構え、詠唱し、放つまでにどうしても隙が出来てしまうはず。

 そうでなくとも一人での探索はリスクを伴うのに……


 というか、そもそもどうやってこの遺跡の場所を知ったんだ?

 この場所は直接指名で依頼されるほど、新しく、誰にも知られて居ない場所のはずだ。

 一体どうやって……?


「……まあなんにせよ彼女の言う通り早めに調査を終わらせて帰るべきでしょうね」

「そうだな」


 クリスタの言う通りだ。

 おそらく俺に推理の才能は無い。考えた所で答えは出せないだろう。


 彼女は明らかに俺たちに遺跡から離れてほしがっていたし、後を付けるなとも言っていた。

 ならば俺たちは彼女の言う通り、余計な詮索をせずに自分たちの目的を遂行するべきだ。

 俺がそんな事を考えている間にも、クリスタは虚空から小さな紙を取り出し、何やらメモを付けている。

 彼女も気にはしているだろうが、俺のように無駄に考えるのではなく、依頼を優先したようだ。


「…………」


 しかし……そんな彼女の姿を見ていると、俺の頭に新たな疑問が浮かんでくる。


「そう言えば遺跡の調査ってどの程度の事なんだ?」


 さっきこそスライムに押しつぶされたり、怪しい女性に遭遇したりしたが、それまでの時間俺は松明を持って歩いていただけだ。

 遺跡の調査とやらはクリスタに任せっきりである。


「えーっと……そうですねぇ、ヴァリウスに理解できるでしょうか……?」

「ぐっ……」


 少しだけ考えこんだクリスタから、言葉のナイフが投げられる。

 今のは純粋に傷ついた。

 クリスタ自身に馬鹿にしたような様子は無いので尚更だ。


「ま、まあ最低条件くらいは知っておいても損はないだろ?」


 とはいえ今は真面目な話の時間だ。

 悟られるのも嫌なので、そのまま続ける。


「そうですねぇ、最低条件としては遺跡内部の罠の有無、生息する魔物の程度等々危険度の判別と…………大まかな地図の作成」


 クリスタが分かれ道を見ながらそう言う。

 クリスタが言葉に詰まった理由は分かる。あの女性のせいだ。

 あの女性が姿を消したのは左の通路。

 通路は十字に分かれはしているが、地図の作成となるといずれ左の通路も調べなければいけない。

 全ての区画を調べなければいけないわけでは無い様だが、ここは入口から初めての分かれ道だ。浅くても少しは調べなければ報酬に関わるだろう。


「……まあまずは右から調べるか、あの女性も2方向調べ終わるころには帰ってるだろ、多分」

「そう上手くいきますかねぇ?」


 おそらく帰ってないんだろうな。そう思いつつも言葉には出さずに俺たちは右側の通路に進み……


「ええ……?」


 上が見えないほど高い壁に突き当たった。


「……古代の昇降機みたいですねぇ。今は動いてませんが」

「……目印立てて真っ直ぐ行くぞ!」


 先が思いやられる。

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