第3話

 竜車に揺られるうちに、日が沈み、また日が登り、気づけば海の街サウリンが見えてきた。


「うおおお!!」


 と、俺はまだから顔を出した。


 海の街なだけあり、一面が海に囲まれている街だ。


 青く広がる海が、太陽の光によりサファイアのように輝く。

 雲ひとつない空の上をカモメたちが飛んでいる。


「ほほっ、ギンジ、お前さんは何歳じゃよ」

「俺かー、二十八」

「もうおっさんじゃなのに、なんじゃ、その若々しいのは」

「うるせーな、俺はまだまだ若い心を捨ててねーだけだ」

「ほほっ、そうか。それで、おまえさんはどうして冒険者に戻ろなんて思ったんじゃ?」


 俺は窓から車内へと首を戻し、レロンを見る。


「金がねーんだよ。金稼ぎ」

「ふん、わしゃ知っとるぞ」

「何をだよ」

「お前さんの秘密じゃよ。また後で二人きりの時に話そう」


 俺の秘密?

 あー。

 

 すぐにわかってしまった。

 なんたって、俺の秘密など一つしかないのだ。


「おっけー。んでだが、じいさんはなんで海の街サウリンなんかに来たんだ?」

「試験官じゃ、冒険者試験のな」

「へえ、じいさんがやるのか」


 そーいえば、十何年前の冒険者試験でもじいさんが試験官をしていたな。


 懐かしいなあ。


「まあ、そこでお前さんの十年で培った実力を見るとするよ」

「なんも培ってねーけどな」


 なんなら、退化してるんだよなあ絶対。


「おっ、そろそろ着くな」

「そうじゃな……」


  

 冒険者試験まで四日。

 竜車のおかげで予想よりも早く着いた。


 海のいい匂いが街の中からする。


 俺とレロンは広場へとやってきて、安全柵によりかかり、海の景色を見ながら話すこととした。


「勇者が魔王を倒したってことになってるだろー」


 内容は、俺の秘密についてだ。


「ああ、本当はお前さんじゃろ?」


 この話は【蒼天団】と勇者しか知らない秘密のはずだ。

 誰も話さないことを約束していたはずなのに、なぜレロンはそれを……。


「そーだよ。なんで知ってんだよ、じいさん」

「ほほっ、そりゃあ、ワシ意外に魔王を倒せるのはお前さんしかおらんからのお」

「マジか。まあ、あの勇者じゃ無理だ」

「その通り。力に負けておる」


 勇者アラン。

 彼はこの世界の者ではない。

 元々別世界にいたが、魔術師たち手により特別な力を手に入れ、この世界にやってきた人間だ。


「他のみんなは元気かのう?」


 俺は空を見ながら。


「さーね、解散以降あってねえや」

「そうか、寂しいのお」

「まあ、元気にやってんだろ、あいつらなら」


 また俺が冒険者を始めただなんて知ったら驚くだろうなあ。


 考えるだけでニヤニヤしてしまう。


「それにしても、お前さんからは昔のようなオーラも魔力も感じんのう」

「あー、魔力はねえんだ」


 オーラに関しては十年も戦いから離れていたのだからなくなるに決まっている。


 俺の発言を聞いたレロンは口をポカリと開けて、


「なっ、それはどういうことじゃ!?」

「言葉のままだよ。魔王を殺す際に生涯分の魔力を使い果たした」

「お前さんならそんなことしなくても魔王に……」

「ああ、勝てたよ」

「なら、なぜ」

「それは言えねえ」


 ふん、と鼻で笑うレロン。


「お前さんらしくていいな。それでこそギンジ!!」


 レロンは左手につく腕時計を見た。


「ん、もう集合の時間じゃ、また冒険者試験で会おう」

「おう、またな」


 レロンの姿が見えなくなるのを確認したあと、俺はポケットに両手を入れ、歩き出す。


「ひとまず、身体をならすとするかあ」


 さすがに少しぐらいは感覚を取り返さないとなあ。

 少しめんどくさいが、仕方がない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る