第2話

 冒険者になるためには、さまざまな都市で半年に一度、同時に行われる冒険者試験に合格しライセンスを手に入れる必要がある。

 ちょうど五日後が試験日だ。

 ライセンスは十年に一度、更新する必要があり、更新日が過ぎてしまうとそのライセンスはもうただのカードになってしまうのだ。

 つまり、もう一度、冒険者試験を受ける必要があるというわけだ。


「ったく、また冒険者になるとはなあ」


 けれど、自分にとって金稼ぎにはやはり冒険者が一番楽だ。


 てなわけで、金のない俺は徒歩四十時間かかる海の街サウリンを歩いて向かうことにした。



 山を越え、谷を越え、俺は鼻歌を歌いながら歩き続ける。


 はあ、足が痛え。

 こう言う時に回復魔法使えたらなあ。

 つーか、使えたのに、もう俺には魔力がねえからなあ。


「こんなことになんなら豪遊しなきゃよかったあ」


 身体中の力を抜き、水と食料と少しばかりの金の入ったリュックを空を見上げた。


 と、その時──


「そっ、そこをどいてくれ──ッ!!」


 ドスンドスン、という地面の揺れる足音と共に、おっさんの叫ぶ声がした。


 俺は慌てて、声の方向を見ると、そこには


「まじか」


 二体の巨大なトカゲ型馬車──通称、竜車がものすごいスピードでこちらに向かってやってきたのだ。

 トカゲたちに何かあり、暴走しているようだ。


 俺は慌てて右に滑り込み、避けた。


「あっ、あぶ……」


 あれ、ない。


 目の前に先ほどまであったリュックがなくなっている。

 一体どこに……。


 竜車を見ると、後ろの先端にはリュックが……。


「おいおい、まじかよッ!!」


 リュックをなくせば、俺は何もかも失ってしまうのだ。


「ついてねえな、ほんと!!」


 ため息を吐いた後、俺は地面を蹴り、竜車に向かって走り出した。


「まちやがれ、このヤロー!!」


 こんなに思いっきり走ったのは何年振りだろうか。


 昔に比べて身体が重い。

 だが、それでも俺ははやい!!


 すぐに竜車のキャビンが見えた。


「いよーし、あと少しだッ」


 ん?


 と、その時俺はとあることを閃いた。


 待てよ。

 このまま竜車に乗っちゃえばいいんじゃねえか?

 どこに行くかはわかんねえけど、それでも、俺が向かうのもこっちの方向だし。


 リュックを取り、そのまま俺はキャビンの中に入った。


「よッ」


 中に入ると、俺を驚いたまで見る乗客たち。


 そんな目で見るなよ、まったく。


 俺はその場にあぐらをかいて座った。


「俺のことは気にすんな。んで、この竜車はどこに向かうんだ?」


 すると、白髪のおじいさんが口を開いた。


「海の街サウリンじゃよ」

「ビンゴ! ちょーどよかった、俺もそこ目指してんだ」

「ほお、その身体つき……冒険者試験か?」

「ああ、そーだよ。すげえな、じいさん」


 あれ、なんだか周りがざわついているような気がする。

 気のせいか?


「お、おい、レロンさんに向かってじいさんって……お前、無礼にもほどがあるぞ!?」


 一人の男性がそう声をかけてきた。


 レロン?

 ん、聞いたことがある気がする。


「誰だ?」


 ほほっ、と笑うレロン。


「お前、マジかよ。元SS級冒険者パーティー【雷帝団】団長のレロンを知らないのか!?」

「あー、聞いたことあると思ったら、雷帝団のレロンか!」


 思い出した。

 昔、一度だけあったことがある。


「なあ、じいさん、俺だよ俺。【蒼天団】のギンジ」


 レロンは目を大きく見開き。


「おおっ、見覚えがあると思ったらギンジか!!」


 ニコニコと、喜び出した。


「おう、そうだよ。いやあ〜、久しぶりだなあ」

「本当じゃな。んで、なぜ冒険者試験を受けるつもりなんじゃ?」

「実はなー、もう一度、冒険者やろうと思うんだ」

「ほほう、それは楽しみじゃ」


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