魔力を使い果たし魔王を倒した、元S級パーティー冒険者のサードライフ 〜金が底を尽きたので、冒険者に復職しようと思う〜

さい

第1話

 十年前──



「おい勇者、そこどけ!!」


 銀髪の男── ギンジ・シュバルツ、十七歳は両手に自身の身長を凌駕するほどの大剣を掴み。


「これで終わりだ、魔王ッ!!」


 バチバチと黄色い稲妻の走る大剣を、魔王ガルバリアンに向かって振り下ろすギンジ。


 その光景を勇者サクライ・アランはただ見ることしかできなかった。


 ギンジの一撃を受け、魔王ガルバリアンは姿を残さずに消えていった。


「お前、今の魔力量……」


 勇者アランはギンジを見る。


「ああ……生涯全ての魔力を代償に撃った」


 彼に後悔などなかった。

 なぜ?


 ──後悔のない選択を選んだからである!!



 魔王ガルバリアンが勇者アランの手によって、倒され人々に平和が戻ってきてから十年が経過した。

 いや、ちげえよ。

 本当は俺が倒したんだ。

 けど、勇者アランは俺たち四人組のS級パーティーに一人、一億ワンスを支払う代わりに自分の手柄にして欲しい。

 そう提案してきて俺たちはのんでしまった。

 いや、俺たちじゃねえや。

 俺以外がのんだんだ。

 はあ、本当……本来なら俺はこの世界の英雄なのに……おかげで、勇者アラン?

 とやらが英雄になっちまった。

 勘弁して欲しいぜ本当よお。


 おっと、そうだったな。

 俺の名前はギンジ・シュバルツ。

 魔王ガルバリアンを討伐した本人であり、この物語の主人公だ!!

 よろしくな。


 んで、話を戻すが、おかげで勇者アランは英雄となり、人々から祝福される存在になった。

 俺はどうかって?

 んなの聞かなくてもわかるだろ。

 一億ワンスで、スローライフ。

 俺たちS級パーティーは一億ワンスをもらったと同時に、解散。

 俺は、田舎でスローライフを送ることにした。

 毎日、寝て起きてご飯食べてギャンブルして夜遊びしての繰り返しよ。

 夢のような時間だった。


 ん?

 なんで過去形かって?


 んなの……。


 ゴンゴンゴン、という荒い扉を叩く音に目を覚ました。


「出てこい!! ギンジ!! 今日こそは借金を返してもらうぞ!!」


 金が尽きたからだよ!!


 俺は慌てて起き、窓に向かって走り出す。


 バリン!!


 そして、窓ガラスを割り、外に出て、地面に着地。


 ここ一ヶ月毎日、借金取りがうちにやってくる。

 現在までに百万も借金しちまった。


 したねーだろ。

 一億ワンス、切れちまったんだからよ。


「待て、ギンジ!!」


 後ろからは俺を呼ぶ声をする。


 見てみると、グラサンにスーツ姿の男たちが俺を捕まえようと走ってきている。


 ああ!!

 毎日毎日、最近ずっとこんなことばかり、もう懲り懲りだ。


 仕方ねえ。

 金稼ぎをするしかねえよな。


 かといって、俺にできるのって……冒険者くらいしかねえもんなあ。


「あああ!! もう一回、冒険者やるかあああ?? それしかねーんだよなあ!!」


 今の俺にはもう魔法が使える身体ではない。

 つまり、剣技だけで冒険者として食っていくしかないのだ。


「やれんのかよお……やるしかねえーんだろうけど……」


 俺は思いっきり地面を蹴り、屋根の上に飛び乗った。


「まっ、なんとかなるか!! んじゃ、お前ら毎日毎日ご苦労さん!! 悪かったな、百万返せなくてよ……」

「待て、ギンジ!!」


 取り立てたちは立ち止まり、俺を見る。


「無理だ、あばよ!!」


 俺は屋根に飛び乗りながら、走り続けた。


 向かう場所は海の街サウリン。

 半年に一回の冒険者試験を受けるために。


 これは、魔王を倒し、その事実を勇者がやったことに偽造される代わりに一億ワンスもらい、スローライフしていたが底がつきちまって再度冒険者として旅をする俺の物語。

 いわば、スローライフがセカンドライフだから……サードライフってことか?





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