第23話 飛竜戦②
「リフレクトシールド!」
そう叫んだのはソプラさんだった。
自分を含む六人を囲うように、目の前にガラスのようにほんのり水色をした膜が張られた。
それに飛竜の吐いた火球が直撃した途端、その勢いをそのまま跳ね返し、火球は飛竜の口元目掛けて一直線に飛んでいった。
「反射魔術かぁ、やるやん」
感心しているエアリーは、その様子をただ茫然と見守っていた。
そして飛竜にそれは直撃。さすがに怯んでいる様子だ。
その隙に、剣士二人は畳み掛けるように走り出した。
「メテオシャワー!」
「ポリッシング!」
後方の魔術師二人が詠唱を唱え、最前線にいる剣士二人への支援攻撃、強化を行っていく。統率が取れているというか、それぞれの役割をしっかり理解した動きだ。
でも、なんだろう。なにか違和感がある。
「食らいなさい!」
違和感を他所に、空から火球のような物が降り注ぎ、飛竜へと直撃した。
しかし、それ程効果はないのか、怯む様子はない。
それでも視界を遮ることはできたようで、直撃時の煙が晴れる前に、剣士二人は飛竜の元へと急接近することができた。
「テーナのメテオシャワーが大して効いてないとはな……。こいつ、硬すぎやしないか?」
「いや、ソプラのポリッシングでお互いの剣の斬れ味が上がっている。バリー、同時に叩くぞ!」
「俺が合わせる、お前は好きに動け!」
「わかった、行くぞ!」
見惚れている場合じゃないのは百も承知だが、これマジで立ち入る隙がない。夢幻武装があったとして、これをどう活かしたらいいのか本気でわからない。
だって二人が持ってる武器、ファンタジーゲームの終盤で手に入るようなさ、ガッチガチの高火力武器にしか見えないもん。
そこにサバイバルナイフ一本で突っ込むって何様だよって。秒で死ぬわ。
なんて思っていると、再び甲高い音が鳴り響いた。どうやら再び斬撃が弾かれたらしい。
「バカな……。これでも弾くというのか!?」
「アール!こいつ硬いだけじゃない、魔術か何かが付与されているんじゃないか!?」
「そういうことだな……!」
斬れ味向上の魔術を付与されても弾かれるなら、確かに飛竜そのものが硬い以外の理由があっても不思議じゃないか。
クァルテットは確か、魔王討伐も視野に入るほどの実力者だった筈。それに文字通り太刀打ちできていないということは、この飛竜、相当強い……。
「ヒール!ハードディフェンス!」
飛竜へのダメージはないものの、魔術師二人の支援によって、行動はかなり抑制されている。実際、火球を吐いてからこれといった動きを見せていない。
しかしやはり、違和感がある。なんだろうこれ。嫌な予感とかそんなんじゃなく、本当に何か気になる程度の違和感だ。分からないのがものすごく気持ち悪い。
「二人とも離れて!フレイムバインド!」
そう叫んだのはテーナさん。普段は無口らしいが、かなり通った声を二人に向けていた。
そして前線の二人が下がった直後、地面から赤い筋が飛び出し、飛竜の体に巻きついて動きを止めた。
「テーナ、助かった!」
「今です!」
動きが止まっている隙に、剣士二人が更に攻撃を仕掛けていく。弾かれてはいるが、それでも立ち向かい続けている。
それを見ているだけの俺たちルーキーペア。帰りたい。エアリーはともかく、ここに混ざれる気がしない。
「うーん、飛竜ちゃんやけど、なんかこう、思ってたんとちゃうな」
「どういうこと?」
「もっとこう、ぐわあああって、暴れ狂ってると思ってたけど、案外大人しくしてたし……。多分アレちゃうか、反省しとったんちゃうか」
「いやそれはわからないけど……」
「ちょっと聞いてみるわ」
「は?」
そう言い残してエアリーが走り出した。テーナさんが放ちまくっている火球で視界も効かない中に単身で。
――っておい!何してんの!?
「ちょっと二人とも待ってくれんか」
「黙れエアリー!あの二人の補助は私だけで十分なの!」
「いやせやから――」
「下がれボケナスが!」
「ちょ――」
「つまみ食い女!」
その一言がトドメとなり、エアリーはその場で膝をついて倒れてしまった。意外と打たれ弱いみたいだ。薄々勘づいていたが……。
「ソプラちゃん落ち着いて!エアリーさん、何か考えがあるんですか?」
「テーナやったっけ……。せや、あの飛竜ちゃん、ちょっと様子変やと思ってな……。なんか、思ったより大人しいやろ、あの子」
「飛竜ちゃん……。あの子……。ま、まあ確かに、川の水もそのままですし、そうは思いましたけど」
「せやから話聞きに行こかなって」
「は?」
「は?」
魔術師二人が呆気に取られている。やはりエアリーの発言はおかしいみたいだ。よかった。
「結構長いこと生きてんねやろ?経験豊富な飛竜ちゃんなら、何かしら意思疎通できると思うねん」
「ななな、何を言ってるんですか……?相手は数千年前から存在する飛竜ですよ!?今までにコンタクトできた試しなんて無いんです!」
「そうよ!こいつはここで大人しくしてもらうしかないの!」
「いやいや、なんか理由あるかもしれんやろ?私一人でええから行かせてくれんか」
再び呆気に取られてしまう魔術師二人。その隙にエアリーはスタスタと飛竜の元へと進んでいった。最早止めるものはいない。
「おーい、飛竜ちゃん。ちょっと話しようや」
「な、何しに来た!危ないから下がれ!」
まあ当然怒られる。見かねたバリーさんが飛竜の正面に立ち、エアリーへの射線を切った。
それを確認したアールさんは、すかさずエアリーの元へと走って向かった。鬼の形相で。
「白魔術師がこんな前線に来てはならない!何を考えてるんだ貴女は!」
「話し合い」
「は?」
「物事はまず話し合いからや。まあ任せてくれ」
戦闘の最中だというのに、数秒ほど時が止まったように錯覚した。
さっきまで地面が響くような音、金属同士が激しくぶつかり合う音、爆発音、風切り音、いろんな音が響いていたのに、この瞬間はそよ風の音さえ聴くことができた。
「…………他でもない貴女だ、何か勝算があるのだろう」
「まあな」
「……わかった、俺から絶対に離れるな」
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