第22話 飛竜戦①
第二十二話 飛竜戦①
町を出て北へ向かう。道中は何事も無く順調に目的地へと向かう事ができた。
アールさん曰く、ゴブリンの王国への侵攻が周囲にも影響を与えているらしく、この地域に生息する魔物は怯えて姿を隠しているらしい。中にはゴブリンと共に侵攻した事でここから居なくなった魔物もいるとか。
それが理由で、王国の首都から少し離れたこの町付近の魔物は、暫く姿を見せなくなったそうだ。道中襲われる心配はないらしい。
「見えた、バロック山脈だ。皆、気を引き締めよう」
アールさんはいつも通りなのか、落ち着いた様子に戻っている。
時々横目でソプラさんの様子を伺っている程度だった。
「随分大きいな……。これがバロック山脈か」
自然豊かな山で緑が目立つ。一部は岩肌が見えていたりもした。
「あんな岩肌、昔無かったで」
「え?」
「あれ多分、飛竜の仕業や」
……嘘だろ?山削るの?うん、帰ろう。人が相手していい奴じゃない。
「バリー、得物の調子は」
「問題ない。いつでもいける」
「テーナ、大丈夫か」
「うん、大丈夫だよ」
「……ソプラ、頼めるか」
「任せて。絶対死なせない」
うーん、流石だ。全員いつでも戦える、臨戦体制ってやつだ。
「エアリー、準備はできてるのか?」
「勿論や」
おお、流石にここはしっかりしているらしい。手に持っている石が気になるが、これを活かすのだろうか。
「ほら、水切りに向いてる石や。めっちゃ見つけたで」
「子供かお前は!そうじゃなくて飛竜退治の準備のこと聞いてんだよ!」
「んなもん適当にやりゃ終わるやろ、大丈夫やて」
「……帰りたい」
一抹どころか億抹ぐらいの不安を抱えたまま、その山脈へと足を踏み入れていく。
道中、燃え尽きて炭化した木、ひび割れた大地などが目に入った。
これも全て、飛竜の仕業ということだろう。
あちこち燃えた跡があるということは、やはり飛竜というのは、火を吹くタイプで間違いないらしい。
心なしか、ここら一帯の気温も高くなっている気がする。それほど遠くないのかもしれない。
「アール、近いよ。探知魔術に反応があった」
そう報告したのはソプラさんだった。探知魔術というもので索敵?をしていたらしい。
「ほー、探知魔術ってそう使えんねんな」
「……どゆこと?そういうもんじゃないの」
「私はあれや、落としもんとか探すときに使ってたわ」
「あぁ、そうですか……」
大は小を兼ねるとは言うが、小が小すぎるんだよこいつ。なんで魔物探知に使えるようなものを落とし物探知機にしてんだ。
「正面、そのまま行けば足下に渓谷。そこに川があって、飛竜はそこにいるみたい」
場所も明確になっている。確かに暫く行けば道が消えて崖になっている。
え?崖?何、そこから行くの?嘘でしょ?
「わかった。行こう」
どうやら崖から行くことに疑問を持つのは自分だけらしい。ファンタジー世界にはまだ慣れそうにないな。いや、慣れたくないな。ゲームじゃねえんだからさ。
そうこうしていると、崖までたどり着いた。足元を覗くと、確かに大きな川が流れている。
砂利や小石でできたような灰色の河川敷には、焦げた赤のような色をした、それはそれは大きな生き物がいた。
大きな翼は折りたたまれているが、それでも自動車が数台すっぽり収まるような大きさだった。これが目の前で広がれば、きっと空は見えなくなるだろう。
しかし思っていたより動きが悪いというか、ほとんど動いていない。もしかして寝てるのか?
「……今は寝てるみたい。きっと暴れて疲れたのね」
「なら、今しかないな。行くぞ!」
リーダーの掛け声を皮切りに、クァルテットの全員が崖から勢いよく飛び降りた。
「エアリー、飛べない。無理」
「ま、ここおってもしゃあない。行くで」
ガシッと手首を掴まれる。嫌な予感しかしない。
「そぉい!」
「嫌だああああ!」
見たこともない速度で目の前の景色が流れていく。下から上に景色が登っていくように錯覚する。
そんな景色ももう見られない。落下する際の風が髪を巻き上げ、思わず目を閉じてしまったからだ。
「ほい!」
「ぐうっ!?」
勢いよくその場で減速した。空中で何かに勢いよく引っ張られたかのように思えた。そうして、気がつけば足が地面に着いていた。
「着いたで」
「おえ……。き、気持ち悪い……」
なんか、酔った気がする。さっきの急減速が理由だろうが……。すっげえ気持ち悪い……。
「おーおー、やっとるやっとる」
その声を聞いて視線を上げると、目の前でクァルテットの四人が戦闘しているのがわかった。
飛竜は既に目を覚ましており、リーダーに向かって咆えている。上から見えていた大きな翼はさらに大きく広げられ、想像通り、空が見えなくなっていた。
クァルテットの他の三人は、飛竜を囲うように散開しており、それぞれ戦う体制になっていた。
「こいつ、刃が遠らない……!」
「クソ、俺のもダメだ!こいつ、一体なんだ……!」
おっと、見るからに歴戦の冒険者である二人が苦戦を強いられている。聞いたところ、硬すぎるのが原因らしい。
剣士二人はそれでも果敢に立ち向かう。だが、甲高い金属音が鳴り響くと同時に、振りかざした剣が勢いよく弾かれてしまっている。
飛竜は微動だにしていない。それどころか、何か溜めているような素振りを見せていた。
「まずい、離れろ!」
そうリーダーが叫ぶと同時に、飛竜は後ろに飛びながら下がった。
着地後、改めて空高く首を持ち上げ、大きく息を吸い込むような動作をした瞬間、口元に赤い光が漏れているのが見えた。
「来るぞ!」
飛竜は、口から炎の塊をこちらに飛ばしてきた。範囲が広い上、遮蔽物は何もない。身を守る術がない。まずい、まずい!どうする!
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