第21話 偶然の再会?

「な、なんやねん急に!私まだなんもしてへんやろ!」

ってなんだよ!いやいい、お前一回謝れ!」

「なんもしてへんのに謝ってもしゃあないやろ!」


 目の前で暴れている女は“ソプラ”というらしい。彼女はずっとメンバーに押さえつけられながら暴れている。

 あー、帰りたい。


 どうしようかと焦っていた時、リーダーがこちらを向いた。しかし、俺たち二人にというより、俺に向かっていた。


「カヅキと名乗ったな。俺はクァルテットのリーダー、“アール”だ。よろしく頼む」

「あぁ……。どうも、よろしくお願いします……」


 最初、彼は冷たい人なのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。その証拠に、表情が少し暗いというか、少なくとも敵意を向けるようなものではなかったからだ。

 

「さっきはすまない……。少し、予想していなかったもので」

「……と言いますと」

「その前に、うちのメンバーを紹介する。今暴れている白魔術師は“ソプラ”。押さえつけている赤魔術師は“テーナ”。あの大柄な男は“バリー”だ」


 さっきから暴れている、エアリーと似たような白いローブを纏う白魔術師“ソプラ”。真っ白に近い金髪で、肩にかかる程度の長さのそれはうねっていた。


 それを抑えている黒いローブを纏った赤魔術師は“テーナ”。真っ赤な髪は腰までまっすぐ伸びている。


 そして大柄な男。かなり重厚感のある鎧を装備しており、そのどれもが金属とは異なる、何か異質な素材らしく、妖しく黒に輝いていた。

 そんな男の名は“バリー”。如何にもパワー系と言った様子だ。

 そんな彼でも、ソプラさんを抑えつけるのに必死になっている。相当怒り狂っているらしい。

 

「ま、また改めて挨拶してきます。今はなんか、それどころじゃなさそうですし。というか、何ですかこの状況は」


 すると、少しため息をついて、アールはゆっくりと口を開いた。


「ソプラは、冒険者の中でも別格の白魔術師。彼女が欠けるとうちのパーティは成り立たない。それぐらいの実力がある」


 ん?なんか聞いたことあるぞ。まさかとは思うが……。いやまさか……。


「その顔、知っているらしいな。そうだ、王国一を競った白魔術師の試験……。エアリー・アルパールに惨敗したのは、うちのソプラだ」

「嘘だろ……」


 最悪すぎる……。ソプラさんにしてみたら、エアリーは舐めプしてきた魔術師ってことじゃないか。そりゃ腹も立つし怒り狂うわ……。

 そんなメンバーと今から一緒に仲良くクエストだって?もう無理だろ。どうすんのこれ。


「ああっ!あんた試験の時の姉ちゃんか!」

「今更思い出したかこのクソボケがぁ!」

「やめろ落ち着け!頼むからっ!」

「ソプラちゃん、落ち着いて……!」


 あーあー、もう……。帰りたい……。

 エアリーに悪気はないのだろう。だがさっきの台詞はソプラさんを逆上させるのには十分すぎる。さっきより明らかにキレてる。

 今押さえつけてくれているバリーって人も、なんだか哀愁漂う顔をしている。テーナって人なんかはもう帰りたそうな顔だ。


 なんかもう……。ごめんなさい……。すみません、うちのアホがご迷惑をおかけしました……。


「まあその、なんだ……。カヅキ、クエストには向かう。ソプラはこっちでなんとか説得する。だが、試験のことはこれ以上言ってあげないでほしい。どうか、頼む」

「勿論です勿論です絶対言いません神に誓います」


 これ以上トラブルを起こしたくない。でも既に頭が痛い。帰りたいなぁ本当に帰りたい。


「ソプラ、一旦深呼吸しろ」

「フーッ、フーッ……チッ、ボケナスが……」


 顔に似合わず口が悪いな……。


「……普段は温厚で、あんな口は利かない。信じてくれ」

 

 今キレ散らかしてるだけで、普段はこんなこと言わない人なのか……。じゃないと他のメンバーもこんなに焦らないだろう。


「ソプラ、今回は協力案件だ。あの軽装備の男も実力はある。俺が保証する」


 待て待て待て、勝手に実力者にされてる。ソプラさんをなんとか落ち着かせるための口実だろうけど、キツいってそれは!


「とにかく合流できた。皆、行こう」


 リーダー以外は全員口を閉じたままだった。それもそう、一連の流れで皆、体力の半分は消費したからだ。

 エアリー?平然としてるに決まってるじゃないですか。“私何かしました?”って面で突っ立ってる。そうだよ、してるんだよお前の場合は!


「……エアリー、あのソプラって人に、試験のことはこれ以上言うなよ」

「わかった……。めんどくさいもんな」


 そこは申し訳ないと思ってくれ。頼む。そして本当に喋らないでくれよ。

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