第20話 クァルテット
そしてついに、この日がやってきた。クエストに参加する日だ。
「エアリーさん、お腹が痛いです。キリキリして吐きそうなぐらい。今日は休みましょう」
「おっしゃ治したるわ」
こいつに仮病は効かない。最強の白魔術師だからだ。
クソ!こんな時に限ってまともにヒーラーしやがって!黙ってドーナツでも食ってろよ!
「どや、治ったか」
「…………はい」
「残念ながら私に仮病は効かへんで、諦めや。ほな行こか〜」
憂鬱な気分のまま家を出た。なんとか拒否したいが、なんか、もう……。うん、なるようになれ。死なないように頑張れ。夢幻武装を効率的に使って生き延びる事だけを考えろ。
「湖行ったら水切りで勝負しようや」
こいつ目的分かってんだろうな……。クエストを受けた以上、観光はおまけだぞ。
「飛竜退治が終わればな……。ところで、先に受注していたパーティって、どんな人たちなんだろうな」
「さあな。なんせ四人組らしいわ。剣士二人と赤魔術師、そんで白魔術師らしいで」
「わぁお。しっかりしてる」
「なーんか知ってる気がすんねんな……」
「飛竜退治が視野に入るパーティってことは実力があるって事だろ?知ってても不思議じゃないんじゃないか」
「そうかもしれへんなぁ……。まあ行ったらわかるやろ」
他のパーティの四人、自分たちを含めたら六人で向かう事になる。大丈夫、俺以外に五人もいる。そいつらだけに矛先が向けば俺は大丈夫。そう、大丈夫な筈だ……。
◆◆◆
「さーて、着いた。ここで集合らしいわ」
「現地集合じゃないんだ……」
待ち合わせ場所は、クエストを受注した町の酒場。こういったファンタジー系の酒場って、本当に想像通りの構造になっているんだな。
木造主体の建築に、天井からはランタンのようなものが吊り下げられ、奥には酒が壁面一杯にズラッと並べられたカウンターがあり、その近くには団体用の大きな机が幾つも用意されている。
そんな大きな机に二人で座って待っている状態だ。勿論、飲むわけではない。
「えっと、パーティ名は“クァルテット”やったかな。なんや洒落た名前しとんな」
「変な人たちじゃないといいけど……」
少なくとも、現時点でその姿は確認できない。
四人パーティという情報がある以上、見たらすぐにわかる筈だが、この酒場には今数人しかいない上、全員が一人で飲みに来ているらしく、席なんかも離れている。
頼むからまともであってくれ。そう思っていると、酒場の扉がゆっくりと開かれた。
「皆、準備は出来てるか」
「俺はいつでも」
「だ、大丈夫、勝つよ、私……」
「大丈夫だよ、支援は任せて」
四人組だ。クァルテットの人達で間違いないだろう。男は二人いて、双方立派な剣を背負い、それらしい鎧を装備している。剣士二人というのは、この二人のことらしい。
そして女二人はそれぞれ白、黒のローブをそれぞれ纏っている。それとエアリーの持っている杖と大差ない物も持っている。まあ魔術師だな。
「お、来たみたいやな」
「はあああ、腹が痛い……」
「治したろか?」
「いや……。大丈夫……」
緊張する……。怖い、マジで怖い。
普通さ、最初のクエストって薬草の回収とか、小さな魔物退治とかでしょ?いきなり飛竜はヤバいって……。
「今回、支援参加が二人居る。ルーキー二人ということらしいが、クエスト申請が通っている以上、実力者である事は疑う余地がない。皆、失礼のないように」
「アール、気持ちはわかるが、ソプラの支援だけで十分じゃないか?わざわざ支援参加を許可した理由がわからない」
「そうよ、私の支援で何か不満でもあった?」
アールというのは、あの煌びやかな防具を身に纏った、ザ・勇者のような男の事だろう。口振りや態度から、きっとリーダーだな。
そして、それに疑問を抱く大柄な男と、恐らく白魔術師である女。もう一人の女は黙り込んでいるが、それにとやかく言われていない辺り、普段からそういう人なのだろう。
「少しここで待っていてくれ。支援参加の二人を探してくる」
そう言ってリーダー格の男が三人と別れ、こちらに向かって歩いて来た。気付いてはいないらしいが、これは好都合だ。
「あんたがリーダーか?今日は頼むわ」
「ノリが軽すぎる!」
しまった、いつもの調子で突っ込んでしまった……。
うわぁ、変な目で見られてるよ。リーダーもなんかちょっと引いてるし……。
「…………えっと、君たち二人が、支援参加希望の冒険者……なのか?」
リーダーがこちらに近づいてきた。しかしその目は疑いを含むどころか、疑いしかなく、品定めをするような目つきでこちらの様子を伺っていた。
無理もない、向こうの四人は重装備というか、かなり整った武装をしている。防具はキッチリ装備しているし、ところどころに深い傷や凹みも目立つ。かなり使い込んでいることがじりじりと伝わってきた。
そして武器の類もかなり使い込まれている。刃こぼれこそしてはいないが、やはりこちらにも傷が刻まれており、過酷な環境を乗り越えた歴史を彷彿とさせる。
それに引き換えこっちはどうだ。エアリーは真っ白な魔法使いの服だけで、身を守る甲冑などの防具は皆無。俺もただの私服。猫との喧嘩ですら血を流せる状態だ。
加えてエアリーの武装も杖のみ。俺に至っては手ぶらにしか見えないのだから、疑いの目で見られても仕方がない。
「すみません、うちのアホが失礼しました。今回参加させていただきます、石村夏月と――」
「誰がアホや!全く……。エアリー・アルパールや。よろしくな」
リーダーと思われる人物に挨拶をし、礼儀として握手をしようとすると、一歩引かれた。まずい、心象を悪くしている。いや、当然なんだけど。
「……まずい」
リーダーは更に後ろに下がり、後ろで机に座っていた女性メンバーの前まで行き、視線を遮った。
え、何、何?確かに失礼な事をしたけど、なんかこう、思っていた行動と少し違う。
「なんや、挨拶くらいしてくれてもええやん。ちょっと文句言ってくるわ」
「いや待て待て、なんか様子が変だって。嫌われてる以前に何かあるってこれ」
そんな俺の忠告を無視して、エアリーはリーダーを含む四人の元へと単身で向かった。
「なんや、挨拶くらいしてくれても――」
「や、待て、待ってくれ」
「待て?何を待つんや」
「…………その声、まさか」
驚きの声を出したのは、意外にも女の方だった。
「ん?あんた、どっかで会ったか?」
「エ……エ……」
「まずい、クソ!バリー、テーナ!ソプラを抑えろ!」
「エアリー・アルパール!貴様ァ!」
さっきまで大人な雰囲気を出していた女が、唐突に発狂しだした。
しかもこう、今にも襲いかかる勢いで暴れている。それを必死に抑える大柄な男ともう一人の女……。
クエスト前に問題を起こさないでくれ、頼むから……。
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