第三章 異世界の飛竜編

第19話 クエスト受注

 一つだけある確実な方法。受付のお姉さんも、飛竜退治の件が火急である事は把握していたのだろう。初心者二人が危険とはいえ、参加する方法を提示してくれた。


「実は、あるパーティメンバーがクエストを予約している状況なのです」

「え?クエストって予約できるんですか」

「はい、勿論予約前に達成された方などがいらっしゃれば、その時点で予約は無効、受注も取り消され報酬も得られませんが」

「まあ、当然ですね」

「はい。それでですね、その方達のバックアップ、後方支援という形であれば、私たちも背中を押してあげられるかなと思いまして。幸い今回予約されたパーティからは、支援参加の許可が下りていますので」


 なるほど、確かにそれなら初心者が二人突っ込んでも問題はないか。


「他のメンバーからの報告等を参考に、当該クエストにおける貢献度から、報酬の分配が行われますので、何もしなければ当然1Gすら手に入りません。その点はご容赦ください」

「ええよ別に、ほなそれでいこか」


 不安は募るばかりだ。どうなるんだこれ……。


     ◆◆◆


 クエストの受注、予約を終えて、今日は引き上げる事にした。

 帰路はまた町中を通る事になったのだが、その際に再び“つまみ食い女”とあちこちから言われてしまい、エアリーは家に着く頃には既に意気消沈していた。


「あー……。しんど……」

「ちょっと言われすぎな気はするな」

「悲しなってくるわほんま。まあ、持ち上げられるよりかはマシなんかもしれんけどな。アレ肩凝るし」


 王国一だ、強い魔法使いだと言われるよりかは気持ち的には楽らしいが、決して新しいあだ名が楽という訳ではないだろう。

 それだけ持ち上げられるのが苦手というか、興味がないわけか。


「ああ、せや。あんたの新装備用意しなあかんな」

「……ああ!そうだった!何?何くれるんだ?剣か?斧か?盾か?」


 期待に胸を膨らませ、エアリーの元へと駆け寄っていく。すると彼女は例の四次元空間から、白くて小さい、宝玉のような物を渡してきた。


「……何この、何?」

「これあんたの武器」

「……これでどうしろと?」

「それ私が作ったんやけどな、結構便利やで」


 本当は突っ込もうと思った。「小さすぎる!」とか「刃物でもない!」とか。でも今は、エアリーのこういう軽いノリで凄まじい事をしてしまう事案を知ってしまっている。これにも何かあるかもしれない。


「どう使うんだこれ」

「それ持ったまま、頭の中に武器とか思い浮かべてみ。それがそのまま形になるわ」

「……なるほど?」


 詳しい説明を聞いたところでどうせ何もわからない。

 言われるがまま、頭の中で武器を想像してみる。一番オーソドックスなのはなんだろうか……。

 剣と盾か?それとも刀か?いや、大剣も捨てがたい。弓なんかもよかったりする。槍なんかもかっこいいよな……。


「男の子ってこういうの好きなんやなぁ。めっちゃ悩むやん。ロマンってやつか?」

「そういうこと。まあ、まずは生き延びたいので軽い武器がいいかな……。うん、そうだな」


 人の背丈ほどの大きな刀を持つとなると、きっと使いこなせない。それ以上に邪魔になるだろう。

 それなら少し大きな包丁ぐらいの小刀、大きなサバイバルナイフのような、それぐらいが丁度いいかもしれない。腰に備えても邪魔にはならない――気がする。


「……お、おお?」


 手に握っていた宝玉に、体から何かが流れ込んでいくのがわかる。これが魔粒子を使うという事だろうか。


「うわうわ気持ち悪い!なんだこれ!手の中でウニウニ動いてる!」

「あっひゃひゃひゃ!自分めっちゃおもろいやん!なんやねんウニウニって!あっはははは!」


 エアリーにメチャクチャに笑われた訳だが、握りしめていた宝玉は変わらず変化を続けていく。

 そうして気がつくと、そのウニウニ動くような不快な感覚は落ち着いていき、やがて止んだ。


「……うお、すげえ。ナイフだ」


 手に握られていたのは、艶の無い黒い刀身のサバイバルナイフだった。

 刃の背はギザギザの鋸の形になっている。蔦なんかを切ることもできそうだ。

 グリップは樹脂かプラ、まあ金属ではない素材が使われており、それにコードが巻き付けられていて、滑りにくくなっている。


 ……うん。確かに武器だ。でも、これで飛竜を?目に入るもの全てを破壊し尽くす勢いで暴れている飛竜を?無理だが?


「おお、なんやゴツいな。見た事ない形と色やけど、なんてやつや?」

「これ、サバイバルナイフって言ってさ。まあその、自然の中で生き延びるための機能が備わったナイフ……って言えば通じるかな」

「ほーん……。じゃあ今度は別の武器思い浮かべてみ」


 別の武器って……。まさかこれ、連続で変化させられるのか?


「…………うーん、このウニウニ、慣れるのに時間かかりそうだな」

「ウニウニは慣れ――いや、慣れんでええよ」

「なんで」

「見てておもろいから」

「覚えてろよお前」


 そんなやりとりをしている間に、ウニウニは止んだ。それはつまり、形成が終わった事を意味する。さて、どんな形になっているのか。


「…………なんやこのトゲトゲ」

「フハッ」


 握られていたのは雲丹ウニだった。嘗めてんのか。不意打ちすぎて笑ってしまったぞ。


「なんなんこれ」

「違う、これ雲丹って言って、俺の世界の海産物。食材。さっきからウニウニウニウニ言うから……」

「嘘やろ!?武器でもないもん作ったんか!?おもろすぎやろ自分!あーっはっはっはっ!」


 そして笑われた勢いで思い切り背中を叩かれた。痛い。こいつ本当、覚えてろよ……。


 この宝玉は後に“夢幻むげん武装ぶそう”と名付けられた。夢と幻、つまり想像上の武器を具現化する事と、その可能性の幅が無限であることを掛けたらしい。ちょっとカッコいいと思ってしまった。


 ちなみにエアリー曰く、夢幻武装は元々寝癖治しの道具だったらしく、櫛を適宜用意するのがめんどくさかったから作成したらしい。

 やっぱりおかしいってこいつ。

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