第18話 クエストを見てみよう

 冒険者証の使い方もわかった所で、早速隣町の更に隣町までやってきた。距離はある程度あったが、エアリーが疲労軽減の魔術をかけてくれたお陰か、足の負担がほとんどない。

 この魔術は基礎を固めていく際に自然と覚えた物らしく、魔術一覧でも珍しく文字化けしていなかった。


「さて、クエスト受けよか」

「は?観光だろ?」

「飛竜退治も観光に入るやろ」

「入らねえよ!何言ってんの?観光で飛竜は退治しないよ!?」

「向こうじゃ出来へん体験やで?今ならエアリーちゃんもついてくるよ」

「いや死ぬが」

「あはは!大丈夫大丈夫、秘策あるからいけるて」


 秘策ねぇ……。エアリーのことだ。どうせブラックホールか何かを生み出して何もなかったことにしたりするんじゃないかな。


「ほら、あそこや。行こか」


 エアリーが指差した所には、最初の町で冒険者登録をした時と同じような建物が立っていた。

 乗り気じゃない足取りでそこへ向かうと、何か掲示板のような物が立てかけられていたことに気がついた。

 よく見ると、張り紙のような物が何枚も貼られている。


「飛竜退治、飛竜退治……。あぁ、これか。ほれ」


 ……まず掲示板がどんなものかを見ようとしていたのだが、そんな余裕はなさそうだ。

 たくさん貼られた紙の中からエアリーが一枚を引っ剥がし、渡してきたからだ。


――――――――

・緊急クエスト

・目標――飛竜の活動停止

・推奨ランク――ベテラン以上

・地域――バロック山脈

・推奨職業――剣士、魔術師(攻撃、支援)

・報酬――320,000G

・報告

 永らく眠っていたはずの飛竜が突然目を覚ましたらしい。周りの環境の変化に驚いているのか、目に入るもの全てを破壊し尽くす勢いで暴れている。幸い、奴は自身が目覚めた場所から遠くへ飛ぶ事はしていないし、死人も出ていない。だが、これがもし村を越え町を越えたりしたら……。

 国の存亡に関わる事態でもある。頼む、かの飛竜をどうか鎮めてくれ。

――――――――

 

 ――とあった。


「え、これ……。なあ、ヤバいんじゃねえの。暴れ狂ってるってことだろ」

「はーん、これあかんやつやなぁ」


 報告をサッと読んだだけでも、如何に逼迫しているのか良く伝わってくる。

 だが、エアリーの反応が非常に薄い。温度差で風邪をひきそうだ。かなりヤバい内容なんだけど分かってるのかな。


「なにがあかんって、報酬金が高すぎるのがあかん」

「ああ、なるほど。高額だから危険ってわかる訳だ」


 これ多分32万円分の仕事ってことだもんな……。日当32万って、想像がつかないぞ。


「2,000Gでええやん」

「何を言うてるんですかあなたは」

「飛竜ちゃっちゃと落ち着かせたら終わりやんけこんなん」

「それが出来ないから32万Gなんだよ!?」


 ……あー、でも確かに、エアリーの力なら飛竜をなんとかできそうな気はする。

 

「出没地はバロック山脈か……。ところでな?ここの麓にある湖めっちゃ綺麗やねん。見に行こうや」

「いやもう湖とか心底どうでもいいんだけど」

「ええー、ええとこやのに。一緒に冒険気分しようや。確かにあいつは火ぃ吐くけど当たらんかったら死なへんから」

「そんな当たらなければ当たらない理論が通じるとでも?」

「通じへんの?」

「通じません」


 俺は別にタイムアタックをしている訳でも、裸装備攻略をしている訳でもない一般人だ。そんな無理難題を息を吐くように提案するな。


「なら火炎耐性つけとこか」

「直撃時の衝撃が残ります」

「衝撃耐性もおまけしとく」

「…………ついでに飛竜に関わらないように出来ますか」

「逃げるな」

「たまには逃げてもいいんだろ!?今がそうだよ!」

「ほな私が受けるわ」

「うわああああああ」


 ダメだ、こいつが乗り気だから拒否できない。マジで言ってんの?あんなの倒せんのかよ……。見たこともないけど無理だって絶対。


「ちょっと姉ちゃん、これ受けるわ!」

「こんにちは。では冒険者証を提示してください」


 聞く耳も持たず、エアリーは受付に行ってしまった。本気で飛竜退治に行くつもりらしい。


「はい、エアリー・アル――エアリー・アルパール!?」


 受付のお姉さんは、職務も忘れて大声を出していた。

 考えてみれば、それもそのはず。国を追放された白魔術師が、何食わぬ顔で帰ってきた訳だからな。


「あ、あの……。一つだけよろしいですか?」

「ん?何や」

「貴女ほどの実力者とはいえ、白魔術師一人で対処できる相手ではなく――」

「ああ、安心し。あいつも来るから。夏月、冒険者証出したって」


 そう言われ、急かされるままカードをお姉さんに渡した。


「ええと、石村夏月、初心――初心者ァ!?」

「どや、問題ないやろ」


 んもー清々しい程に綺麗なドヤ顔をしている。本当、憎たらしいほどに良く似合ってるよ。綺麗で美しくて腹が立つわマジで。

 

「死ぬ気ですか貴女たち!?」

「ほらみろ!死ぬしかないってこんなの!」

「だ、第一エアリー様も、冒険者としては初心者と変わらないんです。側から見れば、ただのルーキーペアなんですから、絶対にタダじゃ済みませんよ!?」

「タダじゃ済まないよ!?」


 お姉さんと一緒に全力で否定する為、そのセリフを復唱するしかできない自分が少し情けない。

 

「じゃあ飛竜ちゃんには暴れててもらおか。あーあ残念、バロック山脈の湖はパーやパー。水無くなった湖跡で何するか考え――」

「ああちょっっっとお待ちください!」

「なんや!初心者二人に言うことなんかあらへんやろ!」

「一つだけ……。一つだけ確実で、且つ怪しまれない方法があります」

「なんや、それならそうと早よ教えてや」

「……支援として参加するんです」

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