第17話 冒険者証

 さて、新人冒険者として登録を完了した。

 受付で貰ったこのカード。写真も撮ってないのに顔写真が載っているのが気になるが、裏面にびっしりと文字が記載されていたりしている。

 サイズ感も相まって、まるで本当に免許証を手に入れたようで、少し面白い。


「名前とかその辺間違ってへんか確認しときや」

「大丈夫、向こうでも似たような手続きしてきたから」

「そうか。じゃあ裏面確認しとこか」


 丁度見ていたままの裏面だが、細かい文字をしっかり読むと「ステータスの確認」だとか「利用方法の確認」だとか「よくある質問」とか書いてある。ホームページかな?


「この“ステータスの確認”ってやつ、押して」

「文字が小さい……。これを押すのか……」


 まるで消させる気がない広告を消すような感覚でその文字を押すと、空間に文字が表示された。プロジェクションマッピング――ではないか。

 これに慣れている割に、スマホには驚くんだな……。ちょっと意外。


「ここに魔粒子の量、魔術の一覧とかが表示されんねん。使えるやつ、使ってるやつ、使えへんやつ……。後は派生先とかも見れるわ。魔術の情報は全部入ってるから、暇な時何があるか見てみたらええわ」

「はー、便利だなぁ」


 確かに魔粒子量の表記がある。64/64MP(Magic elementary Particle)と記されているあたり、これが今溜まっている魔粒子ということだろう。しかし偶然にもMPで略せるんだな。分かりやすくて助かる〜。

 

 その他にも“火炎魔術”とか“水流魔術”とか色々書いてある。これはまだ使えないから、あくまで存在してますよって表示されているだけだろう。

 その証拠に、文字が薄い。使えるようになれば、はっきり表示されたりするのだろうか。


「えーっと?うん、文字化けしてるけど何これ」


 確実に読めない。というより、文字として成り立っていない物が一つあった。これが別の言語だとかそういった可能性を排してしまう程に崩れている。


「どれどれ……。付与魔術、ほにゃらら……。ああ、それ“翻訳魔術”やわ」

「ん?翻訳魔術?」

「そうそう」

「でも、全部の魔術が記載されてるんだろ?なんで文字化けしてるんだ」

「それの開発者、私やもん」

「なるほど。どういうこと?」

「それな、私が独自に編み出した新規の魔術やねん。報告してへんから登録されてへんくて、表示が変になっとんのやな」


 えーっと、つまり新しく魔術を作ったから、まだ反映されてないと。こいつやってる事のスケールが大きいんだよな。


「他にも報告してへんやつめっちゃあるから、私のカードとか文字化けだらけやで」

「嘘だろ。ってか、お前も持ってるんだ」

「一応な。冒険者というよりかは身分証として欲しかったから」


 本当に免許証みたいに使ってるやついたよ……。


「ほら、これや」


 そう言って取り出したカードを使ってステータスを確認するが…………。

 どこから突っ込めばいいのかな。なんかもうわからない。


「とりあえず一つ。お前の保有魔粒子。2,147,483,647MPって何。おかしいだろ。ねえ、おかしいだろ!?」

「せやな、これはおかしい」

「だよな」

「少なすぎる」

「なんだってェ?」


 この二十億が少ないって?何言ってんのこの人は。


「努力次第で保有量を増やせるって話はしたよな」

「したした」

「努力しすぎた」

「限度があるだろ」


 ……そうだ忘れていた。こいつ、天才が努力したタイプだった。自分の才能に幼少期に気付き、食事も忘れてひたすら努力したのだろう。

 

 しかしこの数字、確か表示できる限界の一つだった気がする。中途半端に見えるが、この数字ピッタリに出ているということは、本当に表示限界以上に保有しているのだろう。いや、怖いってマジで。


「そしてもう一つ。お前の魔術、文字化け多すぎるんだけど」


 サッと見た限りでも、八割か九割ぐらいが文字化けしている。まともに読めるものもあるにはあるが……。

 

「その辺は全部オリジナルやな」

「何してんのマジで」

「だって覚えるより作った方が早いしおもろいし……」


 マジで動機が軽いんだよなこいつ……。その上形にしてるし本当にこう、規格外だな……。


「じゃあその、この一番上のやつ、なんなの」

「わからん」

「なんで?」

「良う見てみぃ、文字化けしとるの何個あると思う?わからんやろ?私も把握してへんねん」

「こいつマジでさぁ……。家にあった本とかちゃんと読んで、そこから覚えた魔術とかない訳?」


 エアリーの家にあった本棚一杯の魔導書。あの中から覚えた魔術の一つや二つぐらいあっても不思議じゃない。流石に一つぐらい覚えているだろう……。


「ああ、あれ全部私が書いたやつや」

「ふああああ」


 だめだこいつ本当に規格外だ。王国一というより、最早歴代一位、現代魔術の礎となる存在だろ。規模がデカすぎる。だってのになんでちょっとアホなんだよ。


「私は単に楽しいからやってるだけや。私の魔術でみんな笑顔なんねんから、勉強も修行も苦じゃないで。保有魔粒子量も、新規魔術も、みんなみーんな私がやりたかったからやっただけや。本に纏めたのも、自分の通った道を忘れん為に一から十までキッッッッチリ纏めただけでな」

「……天才ダァ」

「だってのに、なんやねん“つまみ食い女”て。ほんま覚えとけよあいつら」


 あー、なんだかんだ根に持ってるわこの人……。

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