第16話 冒険者になろう

「それなりのご褒美って、何?」

「装備一式」

「マジ!?」


 いや、これめちゃめちゃありがたいんじゃない?ちゃんとした武装ってことでしょ?え、ロマンが溢れて止まない。すごい、さっきまで乗り気じゃなかったのに一気に乗り気になった。

 俺ってチョロいんだな……。


「でも、あんた経験無いに等しいから、せやなぁ……。どないしよか」

「ん?装備に経験なんている?」

「防具ならともかく、何かしらの携行武器は経験ないと振り回されへんで」


 あー、まあ確かに。某狩猟ゲームじゃないんだから、そりゃそうか。あんな鉄の塊振り回すんだったら、それなりに鍛えたりしないと持つ事すら出来ないか。


「まあ、私が強化したるし大丈夫か」

「……うーん、大丈夫かな」

「あくまで観光目的、クエストなんか知りませんで通したらなんとでもなるわ」

「そうかなぁ……。まあ何もしなくていいなら、やってもいい、かなぁ」

「よし、決まりや。これ食べたら行こか」


 そう言って残っていたカレーを急いで口の中へと運び出した。白い服着てるのにすごいな。

 っと、俺もちょっと急がないとまずいな、勿体無い気もするけど、サッと食べてしまおう。


「ベーム、ご馳走様。美味かったわ、なんぼ?」

「二人で2,000Gだ」


 うーん、この辺りの貨幣価値がわからない。1Gって何円だろう。1円とかならすごく分かりやすいんだけどな。

 

「ん?えらい安ないか?」

「ドーナツはサービスだ。久しぶりに顔も見れたしな」

「悪いなぁ、ほなこれで頼むわ」


 カレー二皿とドリンク二杯で2,000Gということか。えーっと、日本円だと……。あー、まあ2,000円って言われたら確かに「えらい安い」な……。てことは1Gは1円で計算できそうだな……。


「毎度あり!二人はこれから出かけるんだな」

「そのつもりや。こいつに色々見せたいもんあるからな」

「なるほどな。ん?カヅキはここの人間じゃないのか?」

「今更かい……。こいつは私が異世界から連れてきたんや」

「なるほどなぁ。どういうことだ?」

「そういうことや」

「わからん。はっはっは!」


 やはりエアリーは、この世界でもかなり異質の存在なんだろう。ベームさんが魔術関連の話に一切ついていけていないのがそう物語っている。


「さっき冒険者がどうとか言ってたが、見ての通りここは呆れ返るほど平和な町。もし報酬目当てで活動するのなら、隣町の更に隣町まで行くといいだろう」

「お、なんかあんの」

「ああ。飛竜退治の依頼が出ている」


 おおぅ、マジで?いるの?死ぬなぁこれ。普通に考えて人間が相手しちゃダメな体格差だからね。


「退治ってことは、討伐やないんか」

「ああ。とにかく飛竜による農作物、森林への被害が収まれば良いということだ」


 飛竜を倒すというより、農作物と森林、その辺りの財産、資源を守りたいって事か。

 しっかし、飛竜って、要はドラゴンだよな……。俺、某狩猟ゲームでしか見た事ないんだけどさ、アレと戦えっての?うーん無理だなぁ。

 

「んなもん、その辺の冒険者で対処してくれそうなもんやけどな」

「まあそうなんだが、みんな他の地域に行っちまってて、帰ってくるのに時間がかかるみたいなんだよな」

「まさか、ここに客おらんのって」

「そう、みんな出ちまってる」


 こんなに美味しい食事場が、昼時にガラガラな理由はそれか。


「王国にまた魔物が攻め込んでしまってな、みんな防衛で手がいっぱいってところだ」

「ふーん……。全く、懲りないな」

「ああ……。干渉しないようにしていても、向こうが攻めてくるんじゃどうしようもない。結局、争ってしまう。悲しいもんだ」

「ほんまにな……。やってられんで」


 ゴブリンねぇ……。まあ多分、今思い浮かべているような、緑の肌で、少し痩せたような小柄な体躯をした人型の存在なんだろうな。

 王国に攻め込むとはなかなか肝が据わっているらしいが、どちらかと言えば無謀の方が正しそうだ。


「とりあえず、そこで冒険者登録してくるわ。ついでに飛竜もしばけそうならしばいとく」

「わかった、無理するなよ」

「大丈夫や。ほなベーム、おおきにな。ご馳走様」

「ベームさん、ご馳走様でした」

「また来なよ!」


 そう言って店を出た。


     ◆◆◆


 店を出て、さらに町の中心へと歩いていくと、少し大きな教会のような建物が目に入った。

 入り口と思われる場所のすぐ隣に、受付のような小さな窓口が備え付けられている。

 例えるなら、遊園地の入り口のような構造だ。


「あそこの窓口で冒険者登録できるで」

「そんな遊園地の切符を買うみたいなノリでねぇ」

「簡単やろ」

「まあ、手軽だねぇ」


 結局拒否権は無いらしく、案内されるがまま、俺はその窓口の正面に立たされた。


「こんにちは。どういったご用件でしょうか」

「あの、冒険者登録をお願いします」

「冒険者登録ですね。ではまず、こちらの用紙に名前、住所、生年月日、年齢を記入してください」

「わかりまし――エアリー、名前と年齢しか通じないってこれ」

「その辺は私の言う通りに書こか。別に嘘つくわけちゃうから安心し」


 まあ、確かにそれなら大丈夫か……。


「住所は“未開の森”、年は1600年、月と日はあんたの月と日でええよ」

「いいの?」

「いいの」

「ほーん……。わかった」


 言われるがまま、書類を書き進めていく。

 名前、石村夏月

 住所、未開の森

 生年月日、1600年11月8日

 年齢、満20歳

 ……と。こうしてみると、住所と生年月日の違和感が凄まじい。

 住所が四文字で収まる事もそうだし、生年を16から書き始める機会なんて今後二度と無いだろうな。


「はい、ありがとうございます。ではこちらの魔水晶に手をかざしていただいて、あなたの生体情報を解析し、登録完了となります」


 ……さっきまで気にしていなかったが、受付のお姉さんの隣に置いてある、紫の座布団のようなものの上に鎮座している、ほんのり紫色の水晶。これが魔水晶だろうか。

 

「これが魔水晶……。魔水晶って?」

「魔水晶いうてな、あんたの中に流れてる魔粒子の流れ、状態を読み取るんや。一人一人全員が違う特性、個性をもってるから、個人管理するには丁度ええんよ。魔術適性もわかるしな」


 そんな便利なものがあるんだな。ちょっと不思議な感覚だけど、とりあえずやってみるか……。


 手をかざした途端、水晶の内側から光が生まれ、じわじわと輝いていき、ついには直視できないほどに眩く煌めいたかと思えば、次第にそれは落ち着いていった。


「はい、ではこちらがあなたの冒険者証です。再発行や破棄する際は、最寄りの冒険者総合窓口までお越しください。それではご利用、ありがとうございました」


 ふーむ、やけにすんなりと終わったな……。てっきり、何かしらの数字が極端に大きく、みんなが驚愕するイベントが発生したりすると思ってた。

 そんな上手い話はないか。


「はい、冒険者デビューおめでとさん」

「本当に簡単だったな……」

「せやろ?今貰った冒険者証、あんたの魔粒子と常にリンクしてるから、成長すればするほど豪華な見た目になっていくわ。有効期限は基本的に無いけど、落とさんようにだけ気ぃ付けときや」

「わかった、ありがとう」

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