第15話 ランチタイム

第十五話 ランチタイム

「はいよ、フルーツマッシュトマトカレーだ」


 目の前に運ばれてきたのは、普段よく見るオレンジ色より少し薄い、黄色に近い色のカレーだった。

 これだけ見るとチキンカレーのようだが、どうやら肉の類は入っていないらしい。


「フルーツマッシュってそっちあるん?」

「多分無い。聞いたことないんだよな、だから頼んだんだよ。気になって仕方ないってこんなの」

「なるほどな、気に入るんちゃうかなあ」


 カレーの中を見ると、芋や根菜などの見慣れた具材のほかに、白っぽい何かがあるのが見えた。これが“フルーツマッシュ”だろうか。


「なんか舞茸みたいな見た目だな……」

「食べてみ」

「そうだな。では、いただきます」


 ヒョイと口に放り込む。ふむ、甘口寄りでクセがない、万人受けというよりかは、子供が好きそうな味だな。俺は好き。

 お、おお?おおお!?な、なんだこの甘味。急に来たぞ。

 そうか、キノコか。食感は舞茸とさして変わらない。だけどこいつが甘いんだ。砂糖のダイレクトな甘みというより、素材本来の甘みだ。それが強い。

 そしてカレーがトマトベースということもあって、ほんのり酸味を帯びている。キノコの甘味とよく合っている。

 このフルーツマッシュの甘味は癖になりそうだ……。何これェ……。


「これ美味しい……。これやっぱり、食べたことない」

「そうなんや。フルーツマッシュってのはな、果樹園で獲れるキノコなんや。こっちじゃ結構メジャーやで」


 そうなんだ。果樹園育ちのキノコかぁ、それで甘いのかな。いや全くわからないんだけども。


「はい、ハーモニクスだ」


 そして運ばれて来たのは白く、少し粘度があるようなドリンク。カレーとこのドリンク……。あ、既視感あると思ったら、これラッシーに似てるんだ。


「いただきます」


 刺さっているストローに口をつけて中身を飲むが……。わあああ、これはこれでまた甘い。トロリとした飲み心地で、飲んだ後もしばらく甘みが残っている。

 これ、想像より辛いカレー食べた時にあったら凄く助かる飲み物だな……。いやそうなったらもう完全にラッシーだろ。


 しかし、一つの素材で複数の味と言っていた割に、ただ濃いめの甘さがあるってだけで、ちょっと想像と違ったな。


「お、もしかして飲み方を知らないのか?」

「飲み方?」

「ああ。これはな、混ぜた回数で味が変わるんだよ。少なければ甘いんだが、混ぜれば混ぜるほど酸味が強くなる。勿論甘みも残ったままだ」

「はぁーなるほど!じゃあ早速……」


 ストローで数回だけ、軽く混ぜてみる。心なしか、粘度が下がったような気がする。これでいいのだろうか。

 一口試しに飲んでみるが、確かにさっきより酸味が目立つようになっている。ただ、甘味は確かに残ったままだった。

 これは例えるなら、イチゴの甘味と酸味が違和感なく混在しているような感覚に近い。

 そしてやはり粘度は下がっているようで、少し後味がさっぱりとしていた。確実に変わっている。混ぜただけなのに、凄いなこれ。え、美味。まじで?美味い。


「これもまた美味しいです……。もうびっくり、びっくりの連続ですよ」

「そりゃよかった!」

「やっぱあんたの料理美味いなぁ、懐かしいわほんま」

「またこうして食べてくれて、俺も嬉しいよ。最近は顔も見てなかったから心配してたんだぞ。お前何してたんだ?」

「ちょっと異世界に行ってた」

「うん、分からないな。はっはっは!」


 良かった、エアリーのとんでも魔術はこちらでも通じないらしい。安心した。


「まあなんだ、無理してないならそれでいい。たまにはこうして顔出しに来な」

「おおきに、そうさせてもらうわ」


 まるで実家に帰ってきた娘とその親みたいだな……。小さい頃から面倒を見てくれていたらしいし、実際そんな感じなんだろう。


「せや、あんたさ、これから町出て色々観光するけど、一応冒険者登録とかしとくか?」

「は?冒険者?俺が?」


 まあ、確かにこの世界には冒険者がいるらしいし、そこは違和感がない。

 でもさ、そんな中に俺が突っ込んで大丈夫か?俺ド素人だぞ。

 幸い規格外の白魔術師が隣にいるとはいえ、俺の戦力は皆無だし、冒険も何したらいいかわかんないんだけど。


「ああ、ほんまに冒険するわけちゃうよ。冒険者やないと行かれへん場所とかもあるから、登録しとったらいろいろ便利やねん」

「なるほどそういう理由か。本気で冒険するのかと思ったよ」


 エアリーと食事を交わしながら、そんな会話を進めていく。

 しかし、この世界の事をより知るためにも、この手の話題は把握していた方が良さそうだな……。

 よし、まずは冒険者がどういった存在なのかを把握しよう。


「まず、冒険者とは?」

「せやなぁ……。まず、少数精鋭のメンバーであちこちのクエスト受けるわけや」

「なんか想像通りだな」

「後は成果をギルドに報告して報酬を受け取ると」

「あまりにも想像通りだな」

「全部終わったら酒場で宴会や」

「うーん、だろうね」


 絵に描いたような構図だな。つまりクエストを受け、クリアしたら報酬が手に入るわけだ。何も難しい事はない。


「勿論命に関わる内容やったり、専門的な知識、技術が求められるものほど高額な報酬が期待できるわな」


 所謂高難易度ってことだろう。それも想像できる。

 

「まあー、下手な初心者とかは最初のクエストで大怪我したりする事もあるけど」

「それなりに危険は伴うってことだな」

「魔物とか魔獣とかわんさかおるからな」

「それは恐ろしいな」

「毎年怪我人出とるからな」

「で?その資格を得ないかってことだよな」

「そうや?」

「嫌だが?」

「なんで?」

「死ぬが?」

「根性なし」

「俺何も出来ないし仕方ないだろ……」


 観光目的で命を危険に晒したくない。見られないところは見られない、そう諦めた方がいいだろう。


「冒険者なる言うてくれたら、それなりのご褒美用意するけどな」

「え?」

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