第7話 たこ焼きを作ろう

 準備を整え、家を出た。

 一つ気になるのは、エアリーのその容姿だった。二人で並んで歩くにしても、この服装と髪色だと、目立つどころの騒ぎじゃないのは明白だった。

 じゃあどうしたのかというと……


「どうや?違和感ないやろ」


 そう、変身していた。


 髪色は黒くなり、長さも肩にかからない程度のショートにまで落ち着いた。

 服装もフード付きの白パーカーとデニム、歩きやすそうなシューズになっている。

 顔こそ変化はなかったが、目の色は真っ黒になっており、エアリーの特徴とも言えた真っ白な雰囲気は綺麗さっぱり無くなっていた。

 ここまで劇的に変化されるなら、変装ではなく変身だ。

 ちなみに杖は家に置いてきている。あれに関してはどうしようもないらしい。


「確かに違和感はないな……。というかずっとそれで過ごしてたらいいのに」

「それもええんやけど、私が私でいる為にも、自分を偽るのはあんま好きやないんよ。誰かてありのままの自分でおりたいもんやろ?」

「あー……。うん、そうだな」


 たまーにこうして自論を話してくれるが、なかなかこう、心に響くことを言ってくれる。


「さて、店に着いた訳やけど……」

「店の知識は?」

「あるよ。まあ普通に買い物はできると思ってくれ」


 この調子だと、本当に問題はないらしい。さっと済ませて早く作ろう。


「あ、でもお金は無いわ」

「そこは俺が払うよ、大丈夫」

「そうか、おおきに」


 ◆◆◆


「やってきましたエアリークッキングの時間やー」

「誰も見てないだろ」

「雰囲気大事やろ。ほなやろか」


 ちなみに、エアリーは家に帰った途端に変身を解き、普段の容姿に戻っていた。

 キッチンに二人で居るのはほぼ不可能な広さだったので、大人しく普段生活している部屋で行うことにした。

 目の前に並べられた各具材。タコも買いたてで新鮮な物だ。


「ん?なああんた、これどうすんの」


 そう言って指差したのはキャベツだった。


「え?これもみじん切りにして混ぜ――」

「やめてくれ」

「…………え?」

「たこ焼きにキャベツはやめてくれ。確かに美味いは美味いと思う。でも、あかん気がする。それは絶対に許されへん事やと思う。私の魂がそう囁くんや。頼む、やめてくれ」


 かなり真剣な目つきでそう訴えてきた。本気で嫌なんだろうな、これ。何故かはわからないが……。


「このキャベツは他で消費しよか……。なんやあの、お好み焼きとか言うやつには使うらしいから、それ用にしよか」


 うん、粉物のオンパレードだ。この部屋だけ大阪なのか?


「さて、気を取り直してやろか」

「だな。じゃあまずは生地を作って…………」


 こうしてエアリー監修の下、料理が始まった。


     ◆◆◆


 暫くして、後は焼くだけという場面までやってきた。エアリーの目は輝きを増していた。


「この丸っこい穴に生地入れて焼くんやな?」

「そういうこと。えーっと、まずは生地を入れてと……」


 温めていたたこ焼き用のホットプレートに油を引き、そこに生地を流し込む。穴どころか鉄板全体に生地が行き渡るように満遍なく流すらしい。


「ここに天かす、紅生姜、タコを入れて……」


 ボールに入れてあった天かす、紅生姜を指で摘んで入れ、タコを入れようとした時だった。


「なんやこれ美味いな!?」

「こら!何食ってんだ!」

「タコや」

「分かってる!つまみ食いをするな!」

「だ、だって……。こんな生き物知らんもん……。変な形してるし気になるやん……。そない怒らんでもええやん……。許してや……」


 過去につまみ食いで追放されたことを忘れたのか?こいつマジでさぁ……。


「ま、まあいいけど……。どうせ余るだろうし」

「お、なら遠慮なく」


 エアリーのさっきまでの弱々しい声は嘘のように消え、いつもの調子で再びタコを口にしていた。

 

「余ってから食べろ!タコのないたこ焼きなんて食べたくないだろ?」

「タコのないたこ焼き……。つまり、?」

「マジで一回黙れ」


 いちいち付き合ってたらキリがない。くだらない事ばっかり言いやがって……。


「えーっと、火が通ってきたら半周ほど回して……半周?」

「角度で言えば直角にしろってことやな」

「丸くならないぞ?」

「一回でやらんでええんやろ。二回以上に分けて丸くすると思ったらええ」


 こいつ初めてだよな?口調のせいで経験者みたいになってるの面白いな。


「……ああ、なるほど。中の固まってない生地が溢れたり、膨らんだりするから、数回回しても丸くなるのか」

「そういうこっちゃ、火を通しすぎてたらあかんやろうけどな。お、ええ匂いしてきたな」


 そうこうしていると、たこ焼きらしい形に仕上がってきた。まだまだ白っぽい見た目だが、もう少し焼けば、普段見かける狐色のように綺麗な焼き色がついてくれるだろう。


「よし、焼けたな」

「おお!たこ焼きできたか!」

「あとは器に乗せて、味付けだ」


 器に六個移し、ソースをかける。そこに青海苔を塗して、最後に鰹節を振り掛ける。そこに竹串を二本刺して完成だ。誰がどう見ても立派なたこ焼きだ。


「ほら、久しぶりの手料理だ」

「おおきに……。ほんまおおきにな……。有り難く頂くわな」


 ……あれ、少し涙ぐんでる?目が輝いているというより、潤っているような気が。


「熱いと思うから一口でいくなよ。火傷するから」

「うーん……。大丈夫やろ。ほな、いただきます」

「あ、おい!」


 竹串に刺さったたこ焼きを一つ、大きく開けた口に放り込んだ。


「ほ、ほふ……ん、美味――ア゙ヅッ゙ッ゙ッ゙!!!!?」

「だから言っただろ!水持ってくるから待ってろ!」

「た、頼むわ……。アッッッツ……」


 エアリーの目は、さっきとは絶対に違う理由で潤っていた。

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