第8話 異世界へ行……行けるの!?
お手本のような火傷をしたエアリーだったが、その後も二個、三個と食べ進め、気がつけば無くなっていた。
器が空になる度に新しく焼き、盛り付け、一緒に食べる。そんなことをしばらく繰り返し、生地がなくなる頃には二人とも満腹になっていた。
「ふう、ご馳走さまでした」
「おおきに、ご馳走さまでした」
結局タコは余った為、それを竹串を使って一つずつ食べていく。独特な食感が堪らない。醤油があってもいいなこれ……。
「いやぁほんまに美味かった。これめっちゃ好きや、最後の晩餐はこれがええわ……」
「そんなに美味かったのか、また店のたこ焼きでも買おうか」
「あー……。うん、せやなぁ」
うーん、最後の晩餐に選ぶ割には、ちょっとテンション低いな。いや、余韻に浸っているだけか。
「それもそうやけど、こんな温かいご飯も久しぶりやったし……。満足感がちゃうわ」
「え?加熱調理した草とか食べてたんだろ」
「まあな、でも一人やと寂しいもんやで。食事ってコミュニケーションの一つでもあると思うんよ。人と食べることがどんだけ幸せな事か……」
「ああ、なるほど」
「私今、めっちゃ幸せやもん。ほんま――いや、本当、ありがとう」
その時に見せた笑顔は、とても言葉一つでは言い表せられないほどに美しく、綺麗だった。
そっと目を細め、口角も少しだけ上がり、頬も薄い朱に染まったようにさえ見えた。
「と、とりあえず口拭いたら?」
見かねてティッシュを一枚渡し、それで拭くように促した。
というのも、口元に青海苔が付いていたからだ。
ただ、単なる優しさとは別に、こうして誤魔化しでもしなければ、自分の気が保てないという理由もあった。それ程エアリーの笑顔には破壊力があった。
その辺の自覚は恐らくないのだろう。冗談混じりのように超絶美少女とか言っているが、それは実際その通りだと思っている。こいつを笑顔にするには、多少の覚悟が必要かもしれない。
「なんかお礼したいなぁこれ……。せや、私の世界来てみる?」
「そうだな、俺暇だし……。ん?え?」
私の世界って……。異世界?
「えっと、ん?帰れるの?」
「帰れんで」
「……帰れるのに帰ってないの?」
「うん」
「いや帰れよ!なんで一年も高架下で寝てたの!?夜冷えるのに!」
てっきり、向こうに帰れないからこっちで暮らしていたと思っていたのに、なんだよそれ!帰れるのかよ!
「こっちはこっちでおもろかったしな……。あと、新鮮やったから」
「新鮮?」
「うん、こっちに魔術がない事は来た瞬間にわかったんよ。こんな世界初めてやったからなぁ」
「来た瞬間にって、そんな簡単にわかるようなものなのか?」
「魔力の素になる素粒子みたいなやつがあってな?私の世界の人間は、みんなこれを体内に吸収できるっちゅうか……。ああ、勝手に取り込むんよ。それが無かったからすぐ分かってん。違和感凄かったでほんま」
「はぁー、魔力の素になる素粒子ねぇ……。
「ほぉー、そう翻訳したか。ええな、気に入ったわ」
……こんなノリで決めていいのかな。まあ、分かりやすいか。
「って、待って。魔粒子が無いなら魔術は使えないってこと?」
「当たり前やん」
「でもお前使ってたよな」
「体内に残留してる分使ったんよ」
なるほど……。体が勝手に魔粒子を吸収するなら、溜まる分だけ溜めておいて使わなければいいってことか。なんかゲームとかでもそんな感じだもんな。
「さて、じゃあやってええか?」
「何を?」
「私らの世界来ても、言葉分からんかったらしんどいやろ。私がやったのと同じ要領で、あんたも言葉分かるようにしたろー思ってな」
「あー、なるほど。助かるよ、お願い」
「ほなええな。やるで」
「痛くない?」
「痛くない」
「じゃあ……。お願いします」
そう言うとエアリーは軽く返事をして、自分の頭に手をかざした。
その時、目の前が何か輝いて見えた。キラキラとした粉のようなものが、煌めきながらゆっくりと舞っていて、少しずつ下へ下へと落ちていく。スノードームでも見ているような気分だった。
「……ふう、とりあえずできたわ」
「え、もう?」
「うん、実感湧かんやろうけど」
……と言われるが、実際何が変わったのか全く分からない。
言葉がわかるようになる魔術らしいから、 向こうに行かないとわからないものかもしれない。
「確かに何も変わった気がしないな……」
「せやろな。まあ死んでへんって事は上手い事できてるってことや」
「ほーん……。え?何その、死んでたかもって言い方」
「まあ脳みそ弄ってるようなもんやからな。ミスったら最悪死ぬでこれ」
「聞いてないけど!?」
こいつその辺の了承無しでやったってことか?医者なら大問題だぞ!?
「だって聞かれへんかったし」
「えぇ……」
「まあまあ、成功したからええやん」
「いやまあ……。うん……。成功して良かった……」
最悪死んでいたなんて、ちょっと考えたくないな……。
「さて、下準備はできた。ほな行こか」
そう言ってエアリーは、ぐぅーっと腕と背を目一杯伸ばし、壁に立てかけてあった杖を手に持った。
その姿は魔法使い、白魔術師の正しい姿とも言えるものだった。
最初に会った時は胡座で猫背のまま座ってたから、今になってこいつが魔法使いなんだと再認識できた。
「一応聞くけどさ、ここから先は命の危険とか無いよな?」
「多分無いな」
「た、多分?」
「なんやこう、魔物……。モンスターって言えば通じるんかな。どっちでもええけど、そいつらに襲われんかったら大丈夫や」
そういえば、そんな世界だったな……。
「まあ私おるから大丈夫や。なんかあっても蘇生はしたるし、そうならんようにも努める」
「じゃあ……。うん、よろしくお願いします」
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