第6話 関西弁の理由

「エアリー、たこ焼きを知らないってのもそうなんだけど、分からないことが他にもある」

「なんや、私のスリーサイズか?」

「そうそう素敵な貴女の――じゃなくて。お前なんで関西弁なの」


 関西弁。聞いた限り、こいつの出身はブラス王国。つまり異世界。関西どころか、日本、この世界との関わりが無いはずなのに、どうやって会得したのだろうか。

 しかも結構自然に、違和感のない訛り方をしている訳だし。

 その割にはたこ焼きは知らないと言う。理由がわからない。両者セットみたいなものだろう。


「ああ、通りすがりの人の頭覗いて、使用言語の情報だけ私の中に複写させてもろたんや」

「だああ聞くんじゃなかった、やっぱり意味わかんない」

「えっと……。すまん、頑張って理解してくれ」

「無理な話だよ……。俺魔法とか魔術とか無縁なんだから……」

「そらそうか。えっと、せやな…………。日本語を既に知っている状態にしたんや」


 ……理解はした。だがやはりとんでもない。

 日本語の会得って確か、世界的にもかなり時間がかかる言語だったはずだが、この感じだと、下手したら数分で会得したことにならないか?


「ただ、たまたま訛りの強い人を選んだみたいやねんな。ごく稀に人と話す機会もあったんやけどな、そん時に初めて気づいたんや、これ関西弁っちゅうやつかって」

「はあ、なるほど。標準語に戻すつもりはないのか?」

「自分で言うのもなんやけど、なんか似合ってへん?性格とかその辺と照らし合わせても、こう、違和感ないと思うんやけど」


 それは確かにそうだ。こんな見た目をしているが、生粋の関西人、特に大阪出身と言われても絶対に納得できる程の自然な関西弁を話している。


「まあそんな理由やな」

「じゃあ、たこ焼きを知らない理由は?」

「たこ焼きっちゅうもんが私の世界には無かったんやろな。やから、わからんのや」

「単語を知ってるなら分かりそうだけどな……」

「いやーそうでもないよ。自分らかて経験あるんちゃうの?話だけ聞いて何も分からん知らんってこととか」


 あー、あるな……。なるほどそういう感覚か……。


「……つまりこうだ。言語だけ覚えたから、知識が追いついていない」

「おお、素晴らしい、その通り」

「なるほどな……。初めて話についていけた気がするよ」

「やるやん、さすがやで」

「でもわからないな、知識も日本語と同じように複写?させてもらったらよかったのに」


 そうしていたら、この世界での生き方はもちろん、あらゆる知識を会得して、もっとずっと楽に過ごせていただろうに。


「まあ、それは楽やと思う。でも私はそれが気に食わんのや。知識は自分で会得してなんぼやと思っとるからな。言葉に関しては流石にヤバいと思ったから例外やけど、基本的な事はこっち来てから自分で勉強したわ」

「はぁー……。優等生……」

「ただ、頭ん中覗かせてもらったりはしたけどな。まあ、本代わりっちゅうか、自分の知識だけじゃ限界あるし……。正直、これは申し訳ない事したと思っとる。誰かて頭ん中見られんのは嫌やろうからな……」


 この時、初めてこいつが他人の絡んだ話題で表情を曇らせた。本気で申し訳ないと思っているらしい。

 

「お前って反省できるんだ」

「私のことなんや思っとんねん」

「うーん……。アホの子」

「覚えとけよほんま」


 勿論、実力があり得ない次元である事は重々理解している。それでも拭いきれないアホさがあった。

 

「あ、じゃあトラックとか、ガードレールとか知ってたのも、勉強したから知ってるってことか」

「あーそうそう。でもトラックもなんやえらい種類あるらしいな、その辺まではよう分かってへんのよ」

「十分だろ、すごいよ本当に」

「えへへ、そうか?照れるわ」


 うーん……。勉強、好きなんだろうな。今度辞典でも買ってやろうかな。日本語も読み書きができるなら問題ないだろう。


「でも知識への飽くなき欲求の力はえぐいよ。たこ焼きのこと、はよ教えてくれんか」

「あ、ああ……。これなんだけど」


 そう言って持っているスマートフォンで「たこ焼き」と検索し、表示された画像を見せる。

 するとエアリーは目を見開いて、その画面――というよりスマートフォンそのものを凝視した。

 

「な、なんやこの板!絵が、絵が動いとる!」

「あ、これ?スマートフォンって言うんだけど」

「スマートフォン……。これが『スマホ』か!」

「うん」

「ほおー……。街中でみんな触っとった板ってこれやったんか……。なんやこう、みんなと連絡取ったりできる便利道具やったな。はあー、こんな使い方もできんねんな……そらみんな使うわ」


 特に問題も無さそうだったので、そのまま渡してみる。使い方も直感的なものだったからか、難なく使えるようだった。


「ほう……。ほう……!ごっつおもろいなこれ。本題からズレたけど、ええ経験なったわ。おおきにな」

「いいよ、気にしなくて」

「たまに借りてええか?」

「勿論。壊さなければいいよ」

「わかった。で?この茶色くて丸いんが『たこ焼き』いうやつか」


 表示されているのは間違いなくたこ焼きだった。舟のような形をした器に、八個ほど入っており、ソースと青海苔、鰹節が塗されている一般的な物。

 所謂レシピを見ているらしく、作り方は勿論、使用具材や器具、何から何まで表示されていた。


「えらい美味そうやな……。自分、これ作れるん?」

「え?まあ多分……。生地を作って焼いて丸めたらいいだけだし」

「ほな買い出し行こ。楽しみでしゃあないんや。はよ、はよ行こうや!」

「わかったわかった、まだ店は開いてると思うし、行こうか」

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