第2話 異世界の魔法使い

「私はそう……。あんたらが言うところの“異世界人”。つまり異世界から来たんや」


 目を瞑り、かつての記憶、思い出に浸るような表情でゆっくりと話し出した。


「元々王室付きの魔法使いで――」

「はい、もうわかりません」


 だがそんな入り浸る感情などこっちは知ったこっちゃない。最初からついていけないんだよ。いきなり異世界から来たとか魔法使いとか簡単に言ってくれるな。ちょっと頭痛くなってきたぞ俺。そりゃ俺も異世界絡みと思った方が気は楽だけどさ。


「早いねん。もうちょい耐えてくれんか」

「えっと、異世界から来た。その時点で正直ついていけない」


 はぁー……。と、エアリーは大きなため息をつきながら、頭をポリポリと掻いていた。容姿と行動が合致していないせいか、頭痛が増した。


「頭固いな自分……。ええか?もっぺん言うわ。私はブラス王国に仕えてたこともある魔法使い。まあ白魔術師ってやつで、ヒーラーとかそんなんやっとってん。治癒魔術使って怪我治したり病気治したり、まあいろいろ――」

「はいわかりませ――」

「わかれや!なんも話進まんやんけ!」

「わからないものはわかりません!」

「知らんわそっちの事情は!ええから黙って聞けっちゅうねん!大事な話しとんねんから!」


 胡座のまま膝に拳をゴンとぶつけるが、なぜだろうか、威圧感がまるでない。話がぶっ飛び過ぎていて、それどころじゃないからだろうか。うん、多分そうだ。


「…………じゃあ、なるべく簡潔にわかりやすく丁寧に話して」

「注文も多いなぁほんま……。まあわかった。とにかく、何回も言うけど私は元々王室付きの白魔術師。国どころか名指しで王様に仕えさせられた魔法使いやったんや。

 まあしばらくしたら王様の世話とかも弟子に引き継がせてもらったから、それからは城におる新人の指導とか、他の弟子の教育とか、そんなんやっとったわ」

「ほう……」

「それも落ち着いた頃やったかな。さて何しよかー思って色々仕事とか探しとってん。まあ王様んとこ勤めてたってだけで引く手数多やったけど、城に住み込みで働いとったから、生活基盤もほぼ完成してたんよな。めんどいから出たくなかったし、結局新しい部屋用意してもらって、そこで研究したりして過ごしてたわ」


 想像していた以上に話の規模が大きい気がする。これ、気のせいじゃないよな。淡々と話しているけど、すごいことしてるよな。嘘じゃなければ。


「んでまあ、色々あって、気付いたら私は最年少で王国一の白魔術師として有名になってたらしいんや。冒険者とかその辺の魔物退治を生業にしとる奴らもおるっちゅうのに、全員を差し置いて私が一番ってなんやねんって」

「王国一……。すごいな……。ってか、魔物とか普通にいる世界なのか」

「おるおる、多分あんたの想像通りのやつが。こっちの世界でもちょくちょく本とかゲームで見るんよ。スライムとか、ゴブリンみたいな、ああいうの。あれがそのまんまおる感じ」


 あれって存在するんだ……。


「絵とはいえ、まさかこっちで見るとは思わんかったなぁ」

「そんな魔物に対して、命を懸けて戦ってる本職の人を差し置いて、エアリーが一番に?」

「そうそう。城で王様の世話しとったとはいえ、その後特になんもしてへんのに王国一になってもうた」

「流石に贔屓されたんだろ」

「そう思うよな。やから私はその話聞いた時点で反対したんよ。『一番活躍してる本職の白魔術師とも比べたってくれ』ってな。そしたらまあ、すぐ用意する言うて、翌日の昼には王様の前で披露することになったわ。やって来たのは冒険者パーティの白魔術師の女。可愛らしい娘やったで?めっちゃ睨まれたけど」

「ほう、それで」

「私の圧勝やった……」


 エアリーは少し項垂れながらため息を吐いた。勝ったのに落ち込むなんてあまり聞かないぞ。


「確かに治癒、補助、防御、蘇生、挙げたらキリないけど、全部一人前やったわ。流石、一番活躍してるとされる冒険者パーティのメンバーや。まあ魔王討伐も視野に入ってるぐらいの連中やったらしくて、その娘おらんと成り立たんぐらいには実力のある白魔術師ってことや」

「相手が凄いのはよく伝わった。で、そいつに圧勝したと。なんだかんだ言って、お前も頑張ったんだな」

「いやー全然や。私半分寝とってん」

「何してんだよ」


 あまりにも失礼すぎる。相手も一流の魔法使いだったんだろう?同じ職業として尊敬とかなんか、そういうのはなかったのか?スポーツマンシップみたいなさ、お互いを敬う心とかさ。

 

「だってそんな、今更必死にやるもんか?と思って適当にやってたら眠なってきてな……。最後の方なんか白目剥いとったと思うわ。正直王国一とかいうしょーーーもない肩書とかいらんし、あげられるならあげよー思っとったくらいやからな」

「あげたらよかったのに……居眠りは論外として、手を抜いたりとか、その場で辞退とか考えなかったのか?」

「王様の目の前やで?あからさまに手抜いたらバレて怒られてまうんよ。辞退も考えたけど、そんな事したら不敬や不敬や言われて石投げられるのも目に見えてるしな。

 それに、冒険者の姉ちゃんも必死な顔して頑張っとったし、私もちゃんと受ける事にしたんよ。ただまあ、周りにバレんように加減したけどな。それでも私の方が倍以上の成績やったわ。拍子抜けやったで、なんでやねんって」


 手加減された上、半分寝ていたやつの方が成績が上って……。冒険者、あまりにも可哀想じゃないか……?


「まあ、かくして私は名実ともに一番になったっちゅうわけや」

「ふーん……。まあ、すごいのはわかった」

「でも困る事もあったんよ。考えてみ?私は知らんのに周りは知ってるってことが何を意味するんか。

 街中で声掛けられても、お前誰やねんって気持ちにしかならんのよ。まあ流石にそんなん思っても絶対口にしやんし、無視とか失礼やから挨拶もちゃんと返すし、お願いされたらサインも書いたり、たまに魔術見せたり教えたり、怪我した子供治療したりしたけど」

「お、優しい」

「怒られたけどな」

「え、なんで?」

「『お前は歴史に名を残す偉大な白魔術師であって、単なる著名人や有名人じゃないんだ。国の誇りとも言える存在である自覚を持て、そして立ち振る舞いには気をつけろ』ってな」

「はぁ……」

「でも知らんやん。私そんな名誉欲しい訳ちゃうし、国が勝手に私を指名してきただけやん。魔術かておもろいから勉強続けて、それを積み上げた結果やし」

 

 話を聞いている限り、名誉や名声等、そういった物には一切興味がなく、あくまで結果的にとてつもない地位を得た、ということらしい。もしかしなくても、こいつ相当すごい奴なんじゃないのか?


「そんな優秀な魔法使いが、どうしてここに?」

「国を追い出された」

「は?追放されたって事?」

「理不尽やろ?」

 

 確かに素行が悪そうな雰囲気は現時点でも漂っている。ただ、エアリーの話が本当なら、そんな優秀な魔法使いを簡単に追放なんてするだろうか。

 仮にも王室付きの、つまり王様専用魔法使いだったぐらいだろ?俺なら絶対手放さないけどな……。それに歴史に名を残す程の実力と実績を得た人物だという話じゃないか。そんな人が追放?どんな事件があったんだ。

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