勘違い妄想

@smdb

勘違い妄想

新歓の食事会が終わり、店の外に出た時、君は私に話をしようと言ってきた。もっと話したかったとも言った。私は少し驚いたが「それじゃあ話そう」と言った。

 私が君にしょうもない質問をするたびに君は私を疑うような表情で答えた。あの時、なぜ君がそんな顔をしているのかわからなかった。よく考えればあれが私たちの最後の会話だったのだ。もっとマシなことを話しておけばよかった。君は私に怒っていただろう。私はそれに気がつかなかった。

 このサークルに入るかと君が私に聞いた時、私は必ず入ると伝えた。その答えが君を悩ませたのがこの鈍感な私にも伝わった。その時になって私はようやく理解した。君はあの新歓にパーティー感覚で来ていたのだ。

 私は君の横に立って歩き出した。もっと話しておきたいと思ったからだ。君はこれから急いで話しても無駄なことを知っていた。だからいくら私がいろいろ話しても悲しい顔をするばかりだったのだ。もしあの後君に「もっと話したかった」とでも連絡したら君は何て言った?私たちはもっと仲良くなれた?

 私たちが歩き出した時、先輩は私たちを呼び止めた。締めの言葉があったからだ。新入生はその先輩を囲うように並び、私たちは離れ離れになった。再び集団が歩き出した時には私は他の子と自己紹介をしあっていた。その会話から抜けて列の先頭を歩く君に話しかける勇気はなかった。私の勘違いかもしれないと思ったからだ。しかし違った。

 集団がだんだんとバラバラに別れ、私の集団と君の集団が別れる時に君は「もっと話したかった」と言った。私は何も言えなかった。そのまま山手線に乗り、私はひとりになった。

 君は私と同じ大学ですらなかった。本当にただのパーティ感覚で来ていたのだ。私は君と付き合いたいわけじゃない。君もそうだろう。だけど君のことをもっと知りたかった。少しビビッときたからだ。ただ今さら何かしようという気にはならない。ただあの夜の君の悲しそうな目を思い出すだけだ。

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