大悪魔

 学校を抜け出すことを決めた僕とアンリは早速、大悪魔が封印されているという遺跡に向かって空を滑空している最中だった。


「えっとね……敵の大悪魔の詳細についてだけど。その悪魔の名は決して語ることを許されぬほどに恐ろしきもの。別にここで話しちゃってもいいけど、一応名前は言わないでおくね」


「うん、わかった」


 悪魔にとって名前ってのはかなり大事らしいからね。

 フロイデもそう言っていたし、ゲームの設定集でもそんなことが書かれていた記憶がある。


「名前も語れぬほどに恐ろしき悪魔。そんな悪魔を私は、というか昔の人はとある別称で呼んでいるの。その別称が憤怒。貴族社会である悪魔たちの頂点。公爵級悪魔。その中でも特別であり、最上位に位置しているこの世界に存在する悪魔たちの中で最も早く生まれた七柱のうちが一柱。原初の憤怒。それこそが今、私たちが向かっている先の遺跡で封印されている悪魔の名よ」


「……んっ?」


 待って?

 話を聞く限り……かなり、封印されている悪魔というのは高位に聞こえるのだが……。


「(……なんでフロイデが、高位っぽそうな悪魔の詳細について知っているの?)」


 アンリの説明を聞き、戦々恐々とし始めた僕は自分の中にいるアンリへと疑問の声を投げかける……なんか、まだ学校にいた頃のアンリってそんな大した相手じゃないかのように語り、格上とは思えないような呼び方をしていたよね?

 結構上下関係がきついらしい悪魔の一人が自分の遥か上位の存在をあいつ呼ばわりとかありえない気がするんですけどぉ?


「(知っているに決まっているじゃない。私の数少ない同期よ。嫌でも覚えるわよ。それに、あの憤怒のクソ女は癇癪持ちで騒がしいのよね。人類が封印してくれて助かったわ。ふふっ、私があの愚かな人類どもに力を貸してやっただけの意味はあったわ)」


「(……もしかして、フロイデってばかなり高位の悪魔だったりする?)」


 フロイデなんて所詮はまだ生まれたばかりのロリ悪魔。

 そう思っていた僕は何か凄そうなことを語っているフロイデへと疑問の声を投げかける。


「(い、今さらっ!?私は公爵級悪魔の一人で原初が一柱なのだけどっ!?)」


「(えぇぇぇぇぇええええええええええええっ!?)」


 僕はフロイデの言葉に内心で絶叫する。

 何それ聞いていない。

 雑に召喚した悪魔がそんな原初とかいう凄そうなやつらの一角とか聞いていないよっ!?


「(え、えぇぇぇええええええええええええっ!?逆に今までは私のことをなんだとっ……!?)」


「どうかした?私の説明で何か、わからないとことかあった?」


「い、いや……何でもないよ」


 僕はフロイデの正体にただただ動揺しながら、それでも自分の様子を見て首を傾げだしたアンリにはごまかしの言葉を辛うじて告げるのだった。

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