出発

「よし、それじゃあ、もう話は終わりかな?」


「うん、私の本題は終わりだよ」


 アンリは僕の言葉に頷き、笑みを見せる。


「よし、それじゃあ、教室の方に戻ろうか。今ならまだギリギリ朝のHRにも間に合うかもしれない」

 

 自分の体内時計的にはまだセーフと言える段階だ。

 今戻ればギリ、大丈夫。


「えっ?何を言っているのかしら?事態は結構急を要するのよ。今すぐにでも向かいましょう?」


「えっ!?」


 そんな思惑でもって教室に戻ろうと告げる自分の言葉に対するアンリの返答を受け、僕は驚愕の声を上げる。


「ちょっ!?これから普通に授業があるんだけど?」


「別にいいじゃない。少しくらい学校の授業を飛んでも……正直な話、別に授業を受ける必要は特にないでしょう? 何か、学びになるようなことはあったかしら?」


「いや、まぁ……そうだけど」


 僕はこれでも前世からの貯金がある。

 勉強。という点では前世で大学に通ってきた僕のレベルからはだいぶ低く、今のところ新しく学んだことは何もなく、そして、それはこれからしばらくずっとそうだろう。


「事態は世界の危機に関することなのよ?特に行く必要もない学校に固執するよりも、じゃないかしら?別にいかなかかったとしても何か問題はないでしょ?問題になったとしても、侯爵家の力でちょい!じゃない?」


「えー、いや……でもぉ」


 そういうことじゃないんだ。

 僕は学校へと学びに来ているのではなく、前世では味わえなかった甘酸っぱい青春を送るために来ているのだ。

 もしかしたら今日、学校をサボることで大事な恋愛フラグを逃すかもしれない……っ!

 それが、それだけが僕は嫌なのだっ!


「えー、だめぇ?」


 悩む僕に対して、アンリはさみしそうな表情を浮かべながらも、こちらへと上目遣いのまま懇願の言葉を口にする……そ、それはずるいっ!

 美少女にそんな顔をされて……童貞が断れるわけないじゃないかっ!?


「……よし、行こうか」


「やったぁっ!」


「……」

 

 もしかしたら今日、大事な恋愛フラグが起きるかもしれない。

 だが、もしかしたら今日、アンリと学校を抜け出すことが恋愛フラグになるかもしれない。

 詐欺師候補娘との恋愛フラグへと、繋がる可能性もよく考えれば十分あるだろう……それに、男女で一緒に学校を抜けだすってのは普通にあまずっぺぇ青春だよな?

 うん、あぁ!よし!すっごいモチベが!モチベがあがってきたぁぁぁあ!


「うん!そうだね!じゃあ、一緒に学校を抜け出そうか!」


「おーっ!」


 モチベの上昇のままに、僕は元気よく声を張り上げるのだった。

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