呼び出し

 アンヘルとナトリの二人がいがみ合いを始めた中で。


「何かな?アンリ」


 詐欺師候補であるアンリから声をかけられた僕はそちらの方へと意識を向ける。


「ちょいちょい、こっち来て」


 そんな僕に対して、アンリは自分の腕を掴んてそのまま廊下の方へと引っ張っていく。


「あっ、ちょっと」


 もうそろそろで朝のHRが始まるんだけどぉ……いや、でも、可愛い女の子から誘われているのにそれを無下にするなんて決して僕にはぁっ!


「ここら辺でいいかな?」


 朝のHRが始まってしまう。

 だが、可愛い女の子の誘いを跳ねのけるなんて出来ない。

 あまりにも難しい舵取りを迫られることになった僕は色々と悩んでいる間にアンリの手で人気のない階段下の方へと連れ込まれていた。


「……あー、えっと、何かな?」


 ここまで連れ込まれてしまったらしょうがないだろう。

 僕は朝のHRのことは諦めて、アンリへと向き直る。


「ノア。君は魔剣グリムの使い方を覚えているかな?」


「えっ、そりゃあ……まぁ、基本的には僕の最大火力として今も君臨し続けてくれているよ。魔剣グリムは」


 覚えているかな……言い方にはかなりの違和感があるが、彼女の視点だと僕は自分のことを忘れてしまった記憶喪失扱いになるわけで、言葉としては一応正しいのか。

 まぁ、幼少期の頃もバッチリと記憶している転生者である僕が記憶喪失であるはずないのだけど。


「ちょっと、ここで召喚してみせてくれるかしら?」


「えー。まぁ……いいけど」


 魔剣グリムの召喚ってちょっぴり時間かかるんだよなぁ。

 僕は体内で魔力を練り上げ、それを放出することなく体の内部で魔法陣を通して魔力を変化させていく。


「来い、魔剣グリム」


 自分の体内だけで巨大な召喚魔法陣を描き切った僕はそのまま自分の体から魔剣グリムを引き抜いてアンリの方へと見せる。


「これでご所望の通りには出来たかな?」


「えぇ!ふひっ、久しぶりにノアの魔剣グリムを見られて満足……やっぱり、魔剣グリムを持っているノアは最高にカッコいいわ。普段はあまり見せてくれない荒々しさとまがまがしさを感じるのよね」


「……ん?用は僕の魔剣グリムを見たかっただけ?」


「いや、違うよ。正直に言って君の魔剣グリムを見たかったというのは私の中でかなり大きな要素だったけど、それでもそれがすべてというわけじゃないよ。ちょっと、魔剣グリムを使えるノアに頼みごとがあってね」


「頼み事?良いよ、何すればいいかな?」


 女の子の頼み事。

 それに対してほぼ反射的に反応して許可を出してしまった僕はそのまま彼女に自分への頼みごとを尋ねるのだった。

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