魔法の雨

 己の目の前にいるまるでクトゥルフのような化け物。


「効かないか」


 そんな化け物に魔法で作った黒き業火を叩きつけた僕は早々に自分の魔法が効いていないことを悟る。

 黒い業火に燃やされ続ける化け物は未なお悠然と動いていた……というか、動かんといて?すっごく喜色悪いんだけど、こいつ。

 

「何か効く属性ないかなぁー」


 僕は嫌悪感を与える化け物を前に不満を覚えながらも次々と魔法を叩きつけていた。

 神の雷霆、地獄の氷息吹、天蓋隕石、暴走の爛風。

 各属性の最高魔法をすべて叩きつけるのだが───。


「効かんのやが」


 クトゥルフのような化け物は未だ健全だった。

 えーっ?これでもダメなら割と魔法は全部効かなくなりそうなんですけど?


「ちょ、あぶなっ……」


 マジで動くな!的であれっ!

 僕が魔法で攻撃を加えている間にものっそりと動きながら自分に向かって大きな腕をぶんぶん、腕を二つ、三つ、四つと増やしながら攻撃してくる化け物に内心で悪態をつく。

 こいつ、ドンとン見た目が醜悪になっていっているよっ!?

 さっさと倒さないと、こいつ。

 僕は一旦、化け物に延々とぶつけ続けていた魔法の雨を止める。


「(ちょっと魔力借りるね)」


「(わかったわ)」


 僕は自分の魔力でとある一つの魔法を準備し、その間はフロイデから借りた魔法で戦闘を再開する。

 基本的に魔法は二つ同時に発動できないからね。なんか知らんけど魔力の変化は一度に複数回行えないのだ。面倒だよねぇー、いつかはどうにかしたい。


「普通の以外ならどうかな?」


 属性には基本的なものと、それとはまた別に特殊なものも存在する。

 目の前の化け者に基本的な属性は効かなかった……ならば、特殊なものだったらどうだろうか?


「次元斬」


 僕は特殊属性の一つ、次元魔法を発動。

 次元ごと空間を斬る、とかいう字面も最強で、実際に起こることも最強な魔法を発動させる。


「おぉー!うまくいった!」


 次元斬がもたらした結果。

 それはひじょーにわかりやすかった。

 流石の化け物も次元ごと斬られればどうしようもなかったのか、スパスパとその身を斬られていく。


「よぉし、この……まま、な、らぁ?」」


 これは次元斬一つで倒しきれるわ!

 そんな楽観的なことを思い浮かべた僕の前で、化け物はさも当たり前みたいなノリで再生を始めていく。


「えぇ……どうなっているぉ?」


 そんな化け物の再生方法。

 それは僕からしてみてもイマイチよくわからない感じだった……何が、どうなって、何処の効力が働いて再生が起こっているんだ?結構意味わからないんだけど。

 すっごい複雑に絡み合った禁忌の術の副次的効果が重なりあって偶然再生しているみたいな感じで喜色悪いんだけどぉ、これ。


「……面倒が過ぎる」


 次元斬でも無理なら正攻法は無理だな。

 少なくとも魔法じゃ無理。


「よしっ、準備できた」


 目の前の化け物を前に魔法じゃ勝てない。

 そう僕が判断すると共に、これまで水面下で進めてきていた僕のとある準備が終わる。



「起きろっ、魔剣グリム」

 

 

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