Re:婚約者
初めての学校をいきなり遅刻して登場してきた僕はその後すぐに、同じクラスメートであった婚約者であるアンヘルに呼び出されていた。
「……あの、今。クラスの方で自己紹介とかをしている最中なんだけど?」
アンヘルの手によって廊下へと連れ出され、そのまま立たされている僕は教室の方へと視線を送りながら声を上げる。
「そんなことは良いじゃない……まずは、さ。婚約者同士積もるものがあるんじゃない?」
そんな僕に対してアンヘルは実に素晴らしい笑顔を見せながら口を開く。
前に会ったのは八歳くらいだっただろうか?
あの頃はまだ小さかったアンヘルも、今では立派なレディー……いや、前世基準で言えば未成年だが、今世においては結婚相手を探し始めて子供を作ることを考え始める時期となる十五歳になったアンヘルは実に綺麗に育っていた。
「そう、まずは一つ目に言葉を言うべきじゃない?」
「あぁ、うん。そうだね。久しぶり」
そんな美人さんから凄まれる僕はちょっとばかり気圧されながらも笑顔で再会のあいさつの言葉を告げる。
「えぇ、久しぶりね。本当に久しぶりだこと……婚約者である私を差し置いてどこに行っていたのかしらねぇ?」
「あぁ……ごめん、長らく魔法を教えてあげられなくて」
僕はアンヘルの言葉に対して、何を言うべきかを判断して口を開く。
「……いや、そういうことじゃ」
「ん?」
だが、そんな僕の答えはアンヘルに呆れられてしまう。
「一つ聞いていいかしら」
「んっ?何?」
「貴方もやっぱり胸の大きな娘が好きなの?ずいぶんと、嬉しそうだったけどねぇ?初対面らしい女の子に抱き着かれて、さぁ」
「えっ?」
アンヘルの言葉に対して、少しばかり疑問を浮かべながら……そして、そのままゆっくりと僕は視線を下げる。
ずいぶんと美しく育ったアンヘル。
だけど、それでもその下にあるもの……胸の方はこれっぽちも大きくなっていなかった。
先ほど、僕に抱き着いていた見知らぬ女の子と比べると天と地ほどの差が存在していた。
「……どこを見ているの?」
「何も」
僕はすぐさま視線を逸らしながら答える。
「ねぇ」
そんな僕に対して、アンヘルはゆっくりと足を上げてそのまま自分の後ろにある壁を思いっきり蹴りつけてくる。
「わぁ」
アンヘルと壁の間に挟まれる形となった僕は彼女のいい匂いが鼻孔をくすぐったことで僅かながらに動揺しながらもそれを抑え込み、極力感情を出さないようにして言葉を告げる。
「……っ」
「えっと……何?」
僕は自分を睨みつけてくるアンヘルに対して、困惑の声を上げる。
「おいっ!」
だが、そんな僕を前にイラついてしまったらしいアンヘルはこちらの顔を思いっきり掴んでくる。
「忘れるなっ」
「はひっ?」
そして、その態勢のまま全力で凄んでくるアンヘルを前に僕は何とも情けない言葉を返してくる。
「お前は私の婚約者だ。それ以上でも、以下でも、前提はそこだ。それをゆめゆめ忘れるな」
「……は、はい」
アンヘルは既に別の男とカップリング済みだけどね。
そんなことを考えながらも、僕はとりあえず彼女の言葉に頷くのだった。
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