第一章 見知らぬヤンデレ娘

出会い

 僕が彼女を探す旅に出て六年。

 ゲームの本編が始まる僕が15歳になった年……ここまで色々な場を回ってなお、自分には未だ彼女が出来ていなかった。

 六年間の努力をもってなお、僕の最大の目的は何も達成されなかったわけだ。

 それは僕にとって大きななやみであるわけだが……それでも、だが、だ。

 今、この時ばかりはその悩みより大きな問題が僕の前に立ちふさがっていた。

 

 キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン。


 中世から近世レベルの西洋風文明圏とはまるで似つかない現代日本のような学校のチャイムが鳴り響くある朝……いや、昼に。


「えー、これより最初の授業を始めます」


 チャイムを響かせる学園のひとつの教室である男の声が響いていた。

 その男の名はガルム。

 平民という身でありながら圧倒的な武力で名を挙げで国に仕える騎士となり、遂にはこの国の貴族の子息子女への教育を一手に担う世界最大の学園なるオリビア学園の教授になるという最大の名誉まで獲得した天才の一人。


「おはようございます!」


 そんな男が教卓に立つ教室。

 そこに一人の少年の挨拶の言葉が響き渡ると共に、教室の窓が破壊される甲高い音も響く。


「んなっ!?」


 窓を破壊しながらダイナミックに挨拶の言葉と共に教室へと入ってきた一人の少年。

 その人物こそが───そう、この僕である。

 ちょっと遠出し過ぎたせいで入学式の開始時刻に間に合わず、学園初日から大遅刻を噛ましている僕であった。


「え、えっと……?」


「初めまして、ガルム先生。私はトアライト侯爵家の嫡男にございます。所用により、初日から遅刻してしまったことを謝罪致します」


 学園初日。午前は入学式、午後は生徒各々クラスでの顔合わせの日程となっている中、午前を僕はまるまる来なかったのである。


「う、うむ……そうか。次回から気をつけるように」


「はい、気をつけます……ということで、自分の席は何処でしょうか?」


「あ、あぁ……えっと、君の席は───」


 僕の疑問を受けて、答えようとした先生が言葉を言い終えるよりも前に。


「んっ?」


 お利口さんに席へと座っていた少女がいきなり立ち上がり、そのまま僕の方へと勢いよく抱きついてくる。


「やっと、やっと逢えたねっ!ノアっ!」


 女の子、それもおっぱいの大きな女の子に抱きつかれている。

 

「えっ……?」


 その事実というのは普通であれば喜べる状況ではあるのだが……。


「誰?」


 前世の際に、僕の幼なじみだと名乗って近づいてきた見知らぬ少女に騙されて有り金全部貢いだ後にトンズラされたという痛いトラウマがある僕は己の知り合いを名乗る少女を前に震え上がるのだった。

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