エスコート

「まず最初に一つ、失礼しよう」


 意気揚々と言葉を話しだそうとした僕の出鼻を早速ヴィザフがくじいてくる。


「何でしょう?」


「初対面でいきなり威圧して悪かった。まずは謝罪させてくれ。すまなかった。未だ子供である君一人が相手というならば容易に呑み込めると断じての行為だったのだけども、実に浅はかであった。すまない。だが、君が私の娘を託すのにこれ以上ないほどに頼もしい人物であったとわかってうれしい気持ちもあるのだがな」


「は、はぁ……」


 想像以上に、もう許したくなるほどに、清々しい態度での言葉を前に僕は思わず困惑の言葉を漏らす。


「お父様。いきなり私たちの関係に水を差すようなことを為さすのを辞めてくださいませんか?」


「良いではないか。その分はお前の魅力で取り直せばいいだろう。親の失態をしっかりとカバーしてくれ」


「……辞めてください。まだ、私は色々と緊張しているような状況ですのにそんな大役を押し付けになるのは」


「はっはっは!我が娘ながら弱気なことを!だが、それも仕方あるまいか。まずは二人の時間を作ってみるか?」


 ……なんか、いつの間にか勝手に場の流れを奪われているんだけど。

 まぁ、良いか。

 あくまでこの場はなのだし、そんな全力で事に当たらなくともいいだろう。

 僕はまだ五歳なのにアンヘルが凄いなぁー、と心の中でこっそりと馬鹿丸出しにしながら鼻をほじっておこう。


「それは良い話ですね」


 心の中で鼻をほじりながらも、前世の知識と経験というドーピングを使っている僕は話に割り込んでしっかりと自分も絡んでいく。


「実は中庭の方で自分は園芸の方を嗜んでまして。ぜひともそちらの方を見せたいな、と……どうでしょうか?私と共に中庭の方を見に生きませんか?自分の作っているエリア以外にも見ごたえのあるところが多いですよ。是非とも自分にエスコートさせてくだませんか?」


 僕はこの場を立ち上がって片膝をアンヘルの前でつきながらそっと自分の手を伸ばす。


「まぁ、是非ともよろしくお願いします」


 そんな僕に対して、アンヘルはそっと自身の手を伸ばしてこちらの手を掴んでくれる。


「おっと。もう私たち大人組はお役御免かね?」


「いきなり威圧しだす人は端から要りませんわ」


「おっと、手厳しい」


「自分は気にしていませんので、そこまで義父を責めないであげてください。あの程度であればそよ風ですしね」


「そうですか?なら、よろしいのですか……」

 

「えぇ、構いませんよ。それよりも自分にとって重要なのはアンヘル様との時間ですから。それでは自分たちはこの辺りで失礼しますね」


「う、うむ……当事者の二人同士、仲良くやってくれ」


 ヴィザフが自分の言葉に頷いたことを確認した僕はアンヘルを連れて部屋を出るのだった。

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