アンヘル
今日、初顔合わせとなる婚約者に会うため、わざわざキッチリとした衣装に身を包んだ僕は彼女に会うための応接室で待機していた。
「ラヴニーナ侯爵家は相も変わらず派手好きなことで」
応接室での待機中、一切やることがなくて暇を持て余している僕は窓の方に身を乗り出して外の様子を眺めていた。
そんな僕の視界に入ってくるのはうちの屋敷の敷地内に入ってくるクソ豪華な馬車。金やら宝石やらで過分に装飾されているラヴニーナ侯爵家の馬車である。
「おっ、来た来た」
そんな馬車が止まり、そこから降りてくるのはまず側近たちを初めとし、自分の婚約者であるアンヘル、それとラヴニーナ侯爵家の当主その人であった。
実に豪華な陣容である。
「……んー、マジでゲームのまま」
アンヘルの姿も、ラヴニーナ侯爵家当主の姿も、どれもまんまゲームのまんまである。
何なら、側近とかにもなんか見たことあるやつらがいる気もする。
そんなことを考えながら窓を見ていた僕の耳に、応接室の扉をノックする音が聞こえてくる。
「んっ、入っていいよ」
「失礼します。ノア様」
僕の許可を受けて応接室へと入ってくるのはやっぱりセバスチャンであった。
「……って、はしたないですよ。ノア様」
そんなセバスチャンはまず、僕が窓のサッシに腰掛けているの姿を見て嗜めの言葉を告げてくる。
「ほーい」
その言葉に頷く僕は指パッチン一つを起点として魔法を発動。
転移することで窓のサッシから応接室のソファへと移動してくる。
「……またまた魔法の無駄遣いを」
「良いだろ、別に?特に損害になるわけでもないのだし。これくらいであれば一日に何千回と使えるよ」
「ノア様の化け物っぷりには改めて言及することでもないですね。そんなことより婚約者の話の方が重要ですよ。本当に大丈夫ですか?会えるだけの準備は出来ていますか?」
「あぁ、僕は何の問題もなく会えるよ。いつだって準備は万端さ」
「……そうですか。それではその言葉を信じさせてもらいますよ。それでは、こちらの方へとラヴニーナ侯爵家のご一行を案内してまいります」
「あぁ、わかったが……セバスチャンが案内するのか?父上はどうした?元々の話では父上が相手するという話だったけど」
「いえ、ご当主様は今、裏手の森の方で暴れ出した竜を宥めに行っておられまして。代理で私と言うことになっております」
「なるほど。それじゃあ、僕も行った方が良くない?大丈夫?セバスチャンで、貴族の格的なもので君じゃ侯爵家の当主含むご一行の出迎え役は役不足じゃないか?」
「いえ、大丈夫ですよ。これでも昔は名の知られた武人だった過去などもありますので。ノア様はここでお待ちになっていてください」
「ん。そういうのなら任せるよ」
「はい。お任せくださいませ。それでは」
僕の言葉に恭しく頷いて見せたセバスチャンは扉を閉めて部屋を出ていく。
それからしばらく。
暇だなぁーって思って、窓のサッシに腰掛けて馬車の周りで取り残された護衛の騎士の動きを眺めながら待っていたところ、応接室の扉がノックされる。
「どうぞ」
それを受け、入室の許可の言葉と共に僕は転移魔法を発動させて元の席へと戻ってくる。
「失礼する」
その許可と共に開けられた扉。
そこを堂々たる態度でまず真っ先にラヴニーナ侯爵家の当主、ヴィザフ・ラヴニーナが入ってくる。
ラヴニーナ侯爵家は豊富な軍事力を有する武家であり、そのトップたる当主の姿威容も実に厳つく、強そうだ。
筋肉マッチョのスキンヘッドの謎ひげ。実に素晴らしい見た目である。
「初めまして。ラヴニーナ侯爵閣下」
「はっはっは!これから私と君は義理の家族となるのだ!そんな堅苦しいのは要らないとも!気軽にヴィザフと呼びたまえよ!」
部屋の中へと入ってきたラヴニーナ侯爵家の当主へと挨拶した僕に対し、彼が返してきたのは魔力の込められたずいぶんと威圧感のある挨拶だった。
言葉に魔力を込めてくるとか……こちらを威圧してくる気満々じゃないですかぁー、いやー、もう、ねぇ?
「ふふっ。それでは遠慮なく呼ばせていただきますね。ヴィザフと」
普通の人であれば萎縮するような挨拶を受け流しながら僕は笑みを返す。
まず向こうがこちらを威圧してきたのだし、呼び捨てくらいいいよね?
「くくく。そう呼んでもらって構わない。さぁ、お前も挨拶するんだ」
僕の返しに対して笑みを浮かべるヴィザフは自分に続いて入ってきた一人の少女へと自己紹介するように声をかける。
「初めまして、ノア様。私はアンヘル・ラヴニーナと申します」
それを受けてアンヘルが自身の着ているドレスの裾を掴んで優雅に一礼してみせる。
「ご丁寧にどうも。アンヘル嬢。それではお二人とも。そちらの席へとどうぞ」
そんな二人のあいさつを聞いた僕はそのまま彼らへと席に座るよう促す。
「うむ」
「失礼します」
彼らが座ると共に、この部屋へと追加で入ってきていた向こう側の付き人たちが静かに二人の後ろに控え始める。
その数は軽く十を超えていそうであり、後ろにセバスチャンしかいない僕がずいぶんと寂しく見えてしまっている。
「それでは」
そんな中で、僕はゆっくりと口を開くのだった。
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