5 セキュリティゲート

 生徒たちは、国立清和高等学校に入るためのセキュリティゲート前までやってきたところで、制服の内ポケットから、セキュリティカードにもなるスマートフォンを取り出した。もちろん、隣の歌恋も同じことをする。


 このスマートフォンは国立清和高等学校に入学する前に支給されるもので、日本とアメリカの大手IT企業が日本政府と共同で開発したものだ。

 世間一般のスマートフォンとは異なり、圧倒的な情報処理速度と特定の周波数で人工衛星との高速通信を行うことができる端末だが、無論、すべてのアプリは一般のものとは異なり、いわゆるSNSなどは使うことができない。

 要すれば、業務用のスマートフォンということだ。


 分厚い壁に埋め込まれたような形のセキュリティゲートは横に六個並んでおり、それぞれのゲートの手前には、公衆電話ボックスにも似た雰囲気の「セキュリティルーム」と呼ばれる部屋がある。これも、壁に埋め込まれているようなイメージだ。

 公衆電話ボックスサイズということもあって、セキュリティルームには一人ずつしか入ることができない。もし二人が同時に入ろうとすれば警報が鳴るという仕組みだ。


 セキュリティゲート前には入校待ちの列ができていたが、ようやく自分の番が回ってきて、私たちは隣り合うセキュリティルームへとそれぞれ入っていった。

 セキュリティルームに入ると目の前の壁にはディスプレイが設置されており、まずは認証端末にスマートフォンをかざすよう画面に説明が表示される。

 表示されているとおりにディスプレイ下の認証端末にスマートフォンをかざした。すると、一秒も経過しない一瞬のうちに認証が完了し、次に指紋の認証を行うと画面に表示された。

 指示されるとおりに、スマートフォンの認証端末のさらに下に設置されている、キーボードサイズの台に両手を広げて乗せた。両手の十本の指の指紋を一気に認証する仕組みとなっている。そのため、一本でも傾いている指があると認証されないので、微妙に難しい。

 二秒ほど経過して、画面には指紋の認証が完了した旨が表示された。……しかし、まだ終わりではない。


 最後に、暗証番号の入力が求められる。

 これには、入学式直後にスマートフォンを通して知らされていた六桁の暗証番号を、画面をタッチして入力する。

 ここまで完了したところで、ようやく画面には「APPROVED」の言葉が表示された。画面の左側にあるゲートが開き、学校の敷地内へと入ることができる。セキュリティゲートは若干暗いため、向こう側から差し込む光がとてつもなく眩しく感じられた。


 同じタイミングにセキュリティゲートを通過してきた歌恋と顔を見合わせては、

「はぁぁぁぁ、長かったね〜」とため息をこぼした。

「ね。何回もやっていたら慣れるのかなぁ……」

 実際にセキュリティルームを通過するのに要した時間は、一分か二分程度なのだろう。しかし、生徒証を見せるだけで簡単に入ることができた国立清和中学校とは異なり、国立清和高等学校は何重にもセキュリティが張られているということだ。

 ——そして、それは、この学校内に機密情報などがたくさん存在するということも意味している。


    ◇◆◇


 セキュリティゲートを過ぎた直後にある校庭を真っ直ぐ抜けて校舎にやってきた私たちは、天井から下がっている電光掲示板を見て、塚原組の作戦室がどこにあるかを確認した。

「えっと、……地下二階だね」

「というか、どの作戦室も地下にあるね」と歌恋。


 彼女が言ったとおり、よく見れば、すべての組の作戦室が地下二階または三階にある。

 このことは中学生の頃に聞いた気がするが、地上の建物だと安全性が担保できないため、作戦に関わるすべての施設が地下にあるということだったはずだ。作戦室の他、射撃場とシャワー室が地下三階にあり、食堂と休憩室は地下一階にある。

 逆に、直接作戦に関わるものではない病棟は地上にある。朱莉が寝ているのもその病棟だが、基本的に病棟に立ち入ることは許されず、そのため面会などもほとんどできない。実際、朱莉が病棟に入ってから今までの間に、一度しか面会に行くことができていない。申請をしたこともあったが、その一回以外はすべて却下された。


    ◇◆◇


 なお、これまで述べてきた国立清和高等学校の説明は、私たちの活動拠点となる、東京都練馬区に位置する「練馬分署」と呼ばれる場所に関するものだ。

 国立清和高等学校は、東京都内は文京分署と練馬分署、そして渋谷分署が置かれている。加えて、各都道府県には最低一つずつの分署が置かれている。

 このように全国に分署を置いている国立清和高等学校だが、本部となっているのは東京都文京区の文京分署だ。最も政府に近いとされており、学長室も文京分署にのみ設置されている。


 私たちは、薄暗い練馬分署の階段を地下二階へと下っていった。地階から立ち昇ってきた冷たい空気が、私たちの頬をかすめてどこかに去っていった。

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