第五話『スケベイスメント蔓延、生産大臣動きますッ!』

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——生産者教育学校。


 それは、ウオランドの中枢、大ピラミッドと、それを取り囲む労動所の中間に位置する。


 初等部、中等部、高等部に分けられた、生産者を育成するための施設。


 屋根が青い。


 施設の屋根が青一色で塗られているのは、そこにいる人間が、生物学的男性であることを示す。


 ここでの授業は、性と労働の話題ばかり。


 『エデンの園』でのセックスを原動力にした生産の重要性が、毎日のように説かれている。


 教鞭を執るのは、『教師ロボット』。


 銀色の金属が剥き出しの、骸骨のような体躯の人型ロボットである。


 授業を受けるのは、エデンの園で生まれた子供たち。


 エデンの園で、ただ性欲の赴くままにつくられた子供たちは、親の顔など、知る由もない。


 だがそれが、今の人類にとっての当たり前だった。



__男性生産者教育学校中等部 一年九組の教室にて__



 朝八時。


 壁には、巨大な黒地の掛け軸がかかり、毛筆で書かれた『セックスは偉大なり』の白文字。


 こじんまりとした机に向かうのは、背筋の伸びた、無地の砂色の作業着に身を包む青年たち。


 教壇に立つのは、一体の、ムキムキでつるっ禿げのウオ。


 このウオは、そのほとんどが全裸のつるっ禿げのウオにしては珍しく、真っ黒なブーメランパンツを履いている。


 ブーメランパンツにはモッコリとした膨らみが施されている。


 噂によると、ファッションの類らしい。


 これから、そのブーメランパンツのウオが、有難いお話を始めるようだ。


卍前途有望な男子生産者候補の諸君ッ! 今日は教師ロボットの代わりに、私『性の大将軍』ことマタノウエハメロデオが直々に、ウオランドを生き術を、叩き込んで差し上げようッ!卍


 青年たちは、性の大将軍マタノウエハメロデオの圧に、萎縮している。


卍第一に、労働にことッ! そして点を稼ぐッ! 見事四八一九一九しじゅうはちイクイク点に達すれば、『管理者』になれるのだッ! 『管理者』については知っているかッ? そこの君ッ!卍


「はい! 生産者、ひいては生産高を管理する人です! 管理者には、毎月の管理報酬として、『風俗券』三枚が与えられます!」


卍その通りッ! では隣の君ッ! 風俗券とは何だッ?卍


「はい! 究極生命体ウオの暮らす大ピラミッド下層部、『エデンの園』でセックスができる、特別な券です!」


卍そうだッ! 諸君、勉強熱心で、性の大将軍は感心するぞッ! だが知識ばかりあっても仕方がないッ! 実際に、エデンの園に行ってみたいと、思わないかねッ? そこの、後ろの君ッ!卍


「はい! たいです!」


卍よしッ! いい心構えだッ! だが、月に三枚、すなわち三回で、十分かねッ? ゴム有りで、十分かねッ? 真ん中の君ッ!卍


「いいえ! もっとしたいです! それも生で!」


卍良いぞ良いぞッ! エデンの園は生中出し子作りし放題だからなッ! では、そんな素晴らしきエデンの園のビデオ、『エ・Vブイ』をオカズにトイレで……卍


\ガラガラガラガラ/

 教師ロボットの一体が扉を開けて入ってきて……


「セイノタイショウグン サマ。 ライキャク デス」

 と言って、ヒートアップする性の大将軍マタノウエハメロデオの授業に水を差す。


卍ほう、誰だッ?卍


「アオワタリ  トカイウ……」


青渡珠紀あおわたりたまきのことだなッ? 貴様、生産者の名を間違えるなッ! 生産者に敬意を払えッ! このポンコツ教師ロボがッ! ぬぉぉぉおッ!」


卍型のファイティングポーズをとる性の大将軍マタノウエハメロデオ。


「アア オヤメクダサイ ワタクシモマタ セイサンシャニヨル サンブツ。ワタクシ ヲ ハカイスル スナワチ セイゾウシャ カナシム……」


卍問答無用ッ! はぁッ!卍


 性の大将軍マタノウエハメロデオの手刀が、

\シュッ/

 教師ロボットの、首を切り落とす。

\コロッ/

 ロボットなので、血は出ない。


卍こいつは義肢の材料として青渡にッ!卍


 あまりに横暴な粛清に、ドン引きする、青年たち。


卍なぁにをボーッと見ているのだッ! さぁ、トイレに行って、朝の一発モーニングショットだッ!卍


「「「「はい!」」」」

 青年たちは、トイレに駆け、自らを慰め始めた。



♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂



__直後、性の大将軍の執務室にて__


 青渡珠紀と、性の大将軍マタノウエハメロデオの二人が、凹型の椅子スケベイスに座り向かい合って話している。性の大将軍の両手には、濃い茶色の液体のボトルが握られている。


\ゴクッ/ \ゴクッ/ \ゴクッ/

卍プハーッ! やはりこの生醤油きじょうゆは格別だッ! また頼むぞッ!卍

 性の大将軍は茶色の液体、生醤油を口の周りにつけながら、舌鼓を打つ。


 青渡珠紀は、性の大将軍の異常な嗜好にやや顔をしかめて、

「はい、こんなものでよろしければ」

 と、依頼を快諾する。


 彼はいつも、性の大将軍への手土産に、生醤油を持ってくるのだ。


卍ところで青渡珠紀よッ! 貴様の義肢装具ぎしそうぐのおかげで、熟練の生産者が怪我をしても、すぐ働けるようになるからなッ! 感謝しているぞッ!卍

 性の大将軍は感謝の意が高まったのか、

 \グシャッ/

 と、飲み干した二本の生醤油のボトルを、それぞれ片手で、ペシャンコに潰してしまう。

 

「いえ、性の大将軍様、恐縮のです」

 青渡珠紀は、淡々とした返事。


卍特に鉱床や炭鉱とかの重労働の熟練生産者は貴重だッ! 岩盤の崩落やらで、体の一部を失うような大怪我が多いのでなッ! 青渡、貴様の力が重要不可欠だッ!卍

 と言って、性の大将軍は、青渡珠紀の右腕、サイバネティクスの鈍色にびいろの義手を指差す。

 

 青渡珠紀は、

\ウィン/

 と音を立てながら、拳を握った義手の親指を立て、

「ありがとうございます。それで……今日はどんなパーツをいただけるのでしょうか?」

 と、一番聞きたかったことを尋ねる。


卍ああそうだったなッ! 今日は大漁だぞッ! つい先ほどスクラップにした教師ロボットの新鮮なパーツだってあるッ! 裏手の廃棄場から、好きなのを好きなだけ、コッソリ持って行ってくれッ!卍

 性の大将軍は、気前が良い。


「そうですか。ありがたく頂戴します。では、失礼ます」

 青渡珠紀はお辞儀をする。

 そして、凹型の椅子スケベイスから二つに割れた桃尻を離して、執務室から出た。



凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹



__男性労動所第一管区の外れ 『スケベイスメント』にて__


 機械部品の散らかる、砂っぽい作業部屋。


 その床に、


 もちっとした質感の、バラバラの四肢。


 やけに幅広の、臀部でんぶ


 黒、茶、金、銀、様々な色のウィッグ。


 ポチッとした突起のついた、お椀型、紡錘形の肉塊。


 貝の身のようなグロテスクな穴。


 長い髪の生首。


 どれも、女性の体のパーツである。


 女性と言っても、本物の生きている女性ではない。


 『セックスボット』だ。


 パーツのひと組みをベッドの上に広げ、組み立てることに没頭する、鈍色のサイバネティクスの右腕。


 そう、ここは青渡珠紀あおわたりたまきの営む、砂の大地に掘られた半地下『スケベイスメント』の中。


 何を隠そう、青渡珠紀が性の大将軍に頼んで、廃棄された教師ロボットをしばしば漁らせてもらっているのは、確かに義肢装具士の仕事のためでもあるが、本命は、セックスボットづくりなのである。


 表では怪我人の義足、義手など、それも人肌の質感に近いものや、神経と繋げて本物のそれと同じように動かせるものまで、幅広い義肢装具を手掛ける彼は、エデンの園に行かずとも本物に近いセックスが可能なセックスボットを作って、擬似的な風俗店、スケベイスメントを営んで儲けているのだ。


 今日も、スケベイスメントに、一人の男が降りてくる。


「おっ珠紀、今日も散らかしてるなぁ。また性の大将軍から教師ロボットの廃品、もらってきたのか?」

 是津林太郎ぜつりんたろうの声。


「まあね」

 青渡珠紀は、視線を林太郎に移すことなく、黙々と組み立てを続ける。


「そうだ、生産大臣ツクルに見つかんねぇようにしろよ? 知り合いの管理者に聞いたが、近頃一斉査察があるらしくてな。お前のスケベイスメントもそろそろ移転の準備をしたほうがいいかもしれないぜ」

 そう言って、林太郎はスケベイスメントを見渡す。

 壁際に、首の後ろに充電のコードが刺さった、裸のセックスボットたちが、ずらりと立ち並んでいる。


「そっか。じゃあこの子を組み立て終わったら、整理するよ」


 青渡珠紀は目にも止まらぬ速さで、女性を作り上げている。

 全身に無数のコードが繋がれた、本物そっくりの女性の裸体。

 組み立ては残すところ、性器のみだ。


「が、査察が入ろうと俺の性欲はおさまらねぇ。聞いてくれ、実はエデンの風俗券を一枚手に入れてよ」

 林太郎はその手に、一枚のピンク色のカードを握っている。


「何、擬似風俗券と交換したいの?」

 と、青渡珠紀は林太郎を見透かしている。


 林太郎は鼻を掻いて、

「へっ、まぁそういうことだ」

 と返事する。


「じゃあ、そこから勝手に三枚取って。エデンの券は適当に置いといてくれる……」


 と、青渡珠紀が林太郎に指示しようとすると、


 またもう一人、

 スケベイスメントにあたふたとした男が駆け込んできて、

「まずい珠紀! 生産大臣ツクルがすぐそこまで来てるらしい!」

 と、叫ぶ。


 林太郎は、ちゃっかり一枚の券を三枚の券と交換してから、

「おーっと、こんなに早いとは、予想外だな! 珠紀、搬出、手伝うぜ!」

 と助け舟を差し出す。


「でもこの子がまだ組み上がってなくて……」

 青渡珠紀は、ベッドに仰向けの、性器を欠いたセックスボットを悲しそうに見つめる。


「オーケー、気持ちはわかるが……一旦手を止めて、ひとまず運べるやつから、運び出そう、な?」

「うん……」

 渋々の返事。

「おい、そこのお前も、手伝ってくれ! 風俗券やるからさ、擬似だけど!」

「風俗券? ラッキー、もちろんいいぜ」

 通りがかりの男は、快く引き受ける。


 彼らは急いで、セックスボットたちを運び出した。



凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹凹△



__数分後__


 もぬけのからになったスケベイスメントに、ヤツが到着した。


 生産大臣、ツクルだ。


 筋肉ムキムキ、頭ツルツル、股間つんつるてんの肉体。


 他のウオと異なる箇所はと言えば、手首まである薄手の黒のグローブ。


卍ええいッ! 人間め、よくこんな狭いところで過ごせるわッ!卍

 生産大臣ツクルは、そのムキムキの巨体を、半地下の入り口に押し込む。

 

 狭苦しそうにスケベイスメントの中を見回ると……

 案の定、ベッドに横たわる、つくりかけの女性セックスボットに目が留まる。


卍んッ!? なぁぜ人間の女がここにいるのだッ!? ここは男性労動所だぞッ!卍

 ツクルは、鋭い目つきで、女性セックスボットの体を睨みつける。

 そして、

 頭を、というよりも髪を片手で掴み持ち上げて、

 繋がれたコードをブチブチと引きちぎり、

 地面に叩きつけて、


\ドガッ/ \ボゴッ/ \バギッ/

 と、ボコボコに破壊する。


 中でも特に、その股の間を執拗に踏みつけて、ぐちゃぐちゃにした。


卍ふぅッ……これでいくらかスッキリしたわッ! さて、ドブネズミたちはどこに逃げたことやらッ……卍

 と、気が済んだかと思えば、

\ドンッ/

 と、おまけにもうひと踏み。


 生産大臣ツクルは、その名に反して、セックスボットを跡形もなくなるほどし尽くすと、

 膝を曲げて姿勢を低くして、

卍うおぉぉぉッ! はぁッ!卍

 と叫び、

 跳んだかと思えば、


\\ドンガラガッシャーン!!//


 天井を、いとも容易く破壊し、スケベイスメントから脱出。

 次なる場所へ、査察に向かうのだった。


〈第六話『穴を掘るヤツらは許さんッ! 半ケツの判決大臣の裁きッ!』へ続く〉

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